投資用不動産を売却すると、手元に残るお金は「売却価格」だけでは決まりません。
譲渡所得の計算、所有期間による税率、減価償却の扱いが噛み合って、最終的な税額が決まります。
特に投資用は、居住用の3,000万円特別控除などを当然の前提にできないため、税金計算の精度が利益に直結します。
一方で、国税庁が示す計算の骨格はシンプルで、順番さえ守れば自分でも概算できます。
ここでは「何を集めて」「どの順で引いて」「どの税率を掛けるか」を、投資用に寄せて具体化します。
投資用不動産売却の税金計算は4ステップで決まる
結論として、税金は「譲渡所得を作る→課税対象を確定→所有期間で税率を決める→税額を出す」の順で固まります。
順番を逆にすると、減価償却や取得費の扱いで数字がズレやすいので、必ずステップ通りに進めます。
ステップ1は分離課税の譲渡所得として整理する
土地建物の譲渡所得は、原則として給与や事業などと分けて税額を計算します。
投資用不動産の売却益も、まずは譲渡所得として分離課税の枠で整理するのが出発点です。
譲渡所得の基本構造は、収入金額から取得費と譲渡費用を差し引く形です。
| 一次情報 | 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税) |
|---|---|
| 基本式 | 譲渡価額-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得 |
| 対象 | 土地、建物、借地権など |
| 税の性格 | 分離課税が原則 |
| 注意 | 損益通算の可否は所得区分で変わる |
ステップ2は譲渡所得の「引くもの」を確定する
税額計算のミスは、ほとんどが「引けるのに引いていない」か「引けないのに入れている」で起きます。
引くものは大きく、取得費と譲渡費用の二つに分かれます。
取得費は購入代金だけでなく、取得時の手数料や改良費等も含みます。
- 取得費は「買ったときに資産を手に入れるための総コスト」
- 譲渡費用は「売るために直接かかったコスト」
- 固定資産税や管理費は、原則として譲渡費用ではない
- 投資用は建物部分の減価償却が取得費に影響しやすい
- 領収書の有無で計算結果が大きく変わる
- 迷ったら国税庁の定義に照らして判断する
ステップ3は建物の取得費を減価償却込みで作り直す
投資用不動産の計算で最重要なのが、建物の取得費は「購入代金のまま」ではない点です。
建物は使用や経過で価値が減るため、取得費から所有期間中の減価償却費相当額を差し引きます。
事業に使われていた場合は、各年の減価償却費を合計して控除します。
| 一次情報 | 国税庁 No.3261 建物の取得費の計算 |
|---|---|
| 考え方 | 建物取得費=購入等の合計-減価償却費相当額 |
| 投資用の注意 | 経費計上していない年があっても合計額は変わらない扱い |
| 影響 | 取得費が下がるほど譲渡所得が増えやすい |
| 実務 | 減価償却の根拠資料を残すと精度が上がる |
ステップ4は所有期間で税率を確定して掛ける
税率は「取得から売却まで」ではなく「売った年の1月1日時点」で5年超かどうかで判定します。
5年超なら長期、5年以下なら短期となり、税率が大きく変わります。
復興特別所得税は基準所得税額に2.1%を掛けて上乗せされる仕組みです。
| 長期の一次情報 | 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算 |
|---|---|
| 短期の一次情報 | 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算 |
| 復興特別所得税 | 国税庁 個人の方に係る復興特別所得税のあらまし |
| 長期の目安 | 合計20.315%(所得税15%+復興0.315%+住民税5%) |
| 短期の目安 | 合計39.63%(所得税30%+復興0.63%+住民税9%) |
税額が一気に見える試算の型を作る
概算でもよいので、同じ型で毎回試算できるようにすると判断が速くなります。
売却価格が決まる前でも、想定価格を置けば税額レンジを出せます。
税率判定だけは売却年の1月1日時点で揃えて考えます。
- 譲渡価額は「手取り」ではなく「売却代金」を基準にする
- 取得費は土地と建物で分けて整理する
- 建物は減価償却控除後の取得費にする
- 譲渡費用は売却のために直接要したものだけに絞る
- 課税譲渡所得に税率を掛けて所得税と住民税を概算する
- 復興特別所得税は基準所得税額に2.1%で上乗せする
- 最後に「納税資金が足りるか」をキャッシュで確認する
譲渡所得の計算式を投資用に落とし込む
譲渡所得の基本式は同じでも、投資用では建物取得費の作り直しと費目の判定が要点になります。
まずは国税庁の定義に沿って、数字の置き場所を固定します。
譲渡価額は契約書の金額を起点にする
譲渡価額は、売買契約書で定めた売却代金が基本です。
敷金精算や管理費清算などがある場合は、譲渡価額に含めるかの整理が必要です。
手取り額から逆算すると混乱しやすいので、先に譲渡価額を置きます。
- 売買契約書の売買代金
- 固定資産税等の精算金の扱い
- 設備や家具の売買代金の含め方
- 一括売却で土地建物の按分が必要なケース
- サブリース等の解約精算があるケース
- 消費税の課税関係が絡むケース
- 司法書士精算書の位置づけ
- 最終的な入金日と売却年の確認
取得費は「取得時の総コスト+改良費等」を積み上げる
取得費は購入代金だけでなく、取得のために要した金額を合計して作ります。
設備費や改良費など、資産価値を高める支出は取得費に入ることがあります。
建物は減価償却を差し引く点が投資用の難所です。
| 一次情報 | 国税庁 No.3252 取得費となるもの |
|---|---|
| 主な対象 | 購入代金、購入手数料、設備費、改良費 |
| 投資用の注意 | 建物は減価償却費相当額を控除して取得費を作る |
| 資料例 | 売買契約書、重要事項説明書、領収書、請求書 |
| 按分 | 土地と建物の区分が必要 |
| 見落とし | 取得時の仲介手数料や登録免許税相当の整理 |
譲渡費用は「売るために直接かかった費用」に絞る
譲渡費用は、売却のために直接かかった費用だけが対象です。
仲介手数料、測量費、契約書の印紙代などが代表例です。
維持管理のための費用は譲渡費用に含まれない点を押さえます。
| 一次情報 | 国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの |
|---|---|
| 代表例 | 仲介手数料、測量費、印紙代、立退料、取壊し費用 |
| 判定軸 | その譲渡のために客観的に必要だったか |
| 要注意 | 修繕費や管理費は原則として対象外 |
| 実務 | 精算書と領収書で裏付ける |
取得費が曖昧なら「5%ルール」を選択肢に入れる
取得時資料が見つからず取得費が分からない場合、譲渡価額の5%を取得費とする方法があります。
ただし実額で積み上げたほうが有利なことも多いので、比較して判断します。
投資用は減価償却の影響もあるため、概算取得費が逆に不利になることもあります。
- 取得時資料がないときの救済として使う
- 譲渡価額×5%が取得費の目安になる
- 実際の取得費が5%未満なら5%を使える場合がある
- 実額が分かるなら実額のほうが基本的に精度が高い
- 土地建物の区分が曖昧だと計算がブレる
- 税務調査リスクを下げるなら根拠資料の収集を優先する
- 国税庁の説明から制度位置づけを確認する
取得費で差が出る資料と見落としやすい費目
投資用不動産は保有中の支出が多く、取得費に入るものと入らないものが混ざりやすいです。
資料の集め方を決めて、漏れを減らすことが税額のブレを抑えます。
最低限そろえる資料の優先順位を決める
まずは「取得」「改良」「売却」の3山に分けて資料を集めると整理が早いです。
取得費は根拠資料の積み上げが強いほど、有利な計算になりやすいです。
電子データでもよいので、ひとまとまりで保管します。
- 売買契約書と重要事項説明書
- 仲介手数料の請求書と領収書
- リフォームや設備交換の見積書と領収書
- 登記費用や司法書士報酬の明細
- 固定資産税の課税明細と精算書
- 賃貸借契約書と更新履歴
- 修繕履歴と工事内容の記録
- 減価償却の計算根拠と年次の集計
- 売却時の媒介契約書と精算書
- 測量や解体の契約書と領収書
- ローン返済予定表と繰上返済の記録
- 賃料精算や敷金精算の明細
取得費に入りやすい支出を短文で仕分けする
取得費は「資産価値を高める支出」や「取得のために要した費用」を中心に考えます。
一方で、原状回復や通常の修繕は、取得費ではなくその年の必要経費側に寄りやすいです。
迷うものは、内容が資産の改良に当たるかで整理します。
| 入りやすい費目 | 購入時仲介手数料 |
|---|---|
| 入りやすい費目 | 取得時の登録関連費用の整理 |
| 入りやすい費目 | 設備追加の工事費 |
| 入りやすい費目 | 耐震補強など価値向上の改良 |
| グレーになりやすい | リフォームが修繕か改良か |
| 入りにくい費目 | 通常の修繕や維持管理 |
| 入りにくい費目 | 火災保険料や管理委託料 |
| 入りにくい費目 | 固定資産税等の保有コスト |
| 実務ポイント | 工事内容の写真と説明を残す |
| 根拠 | 国税庁 No.3252 |
譲渡費用に入りやすい支出を先に固定する
譲渡費用は「売るために直接要した費用」という定義が軸です。
売却活動の中で発生した費用でも、直接性が薄いと対象外になり得ます。
精算書の科目を鵜呑みにせず、性質で判断します。
- 仲介手数料
- 測量費
- 売買契約書の印紙代
- 立退料
- 解体費用
- 売却のための違約金
- 登記に要する費用のうち譲渡に直接要した部分
- 境界確定に直接要した費用
- 売却のために必要な広告のうち直接性が高いもの
- 引渡しに不可欠な手続費用のうち直接性が高いもの
土地と建物の按分が税額を左右する
投資用不動産は土地と建物の割合で、減価償却の影響が変わります。
契約書等で土地建物価格が分かれていれば、その区分を起点に整理します。
区分がない場合は、合理的な基準で按分することが必要になります。
| 按分が必要な理由 | 建物だけが減価償却の対象になり得る |
|---|---|
| 起点 | 売買契約書の土地建物内訳 |
| 補助資料 | 固定資産税評価額の比率 |
| 補助資料 | 不動産鑑定や査定の内訳 |
| 注意 | 恣意的な按分は説明が弱くなる |
| 実務 | 採用した按分根拠をメモで残す |
減価償却が税額を押し上げる仕組み
投資用不動産では、賃貸経営の間に減価償却を計上することで所得を圧縮できる一方、売却時の取得費が下がりやすいです。
ここを理解していないと、黒字売却でも想定より税額が増える感覚になります。
建物の取得費は減価償却費相当額を差し引く
国税庁は、建物の取得費は購入代金等の合計額から減価償却費相当額を差し引くと示しています。
つまり、保有期間中に価値が減った分を取得費に残さない考え方です。
この結果、譲渡所得が増えやすくなる方向に働きます。
| 一次情報 | 国税庁 No.3261 |
|---|---|
| 結論 | 建物取得費は減価償却控除後になる |
| よくある誤り | 購入代金をそのまま取得費にしてしまう |
| 影響 | 課税譲渡所得が増える |
| 対策 | 減価償却の年次合計を資料化する |
減価償却を計上していなくても控除扱いになる点に注意する
事業に使われていた建物では、仮に減価償却費を必要経費にしていない部分があっても合計する扱いが示されています。
「計上していないから売却時も関係ない」という整理は危険です。
申告の整合性を取るためにも、年次の償却額を把握します。
- 経費計上の有無と売却時の取得費調整は別問題になり得る
- 年次の減価償却費を合計して取得費から控除する発想
- 資料がないと計算根拠が弱くなりやすい
- 過年度の申告との整合性確認が重要になる
- 中古・新築で耐用年数の考え方が変わる
- 土地部分は減価償却の対象ではない
- 設備の更新は取得費と経費の境界が出やすい
所有期間の5年判定は売却年の1月1日で揃える
税率を決める長期短期の判定は、売却した年の1月1日時点の所有期間で判断します。
カレンダー上の満5年とズレることがあるため、売却時期の判断材料になります。
短期に入ると税率差が大きいので、日付を確定させて試算します。
| 長期の一次情報 | 国税庁 No.3208 |
|---|---|
| 短期の一次情報 | 国税庁 No.3211 |
| 判定基準 | 売却年の1月1日時点で5年超か |
| 実務 | 取得日と譲渡日の根拠資料を揃える |
| 注意 | 引渡日と契約日など、取得日の取り扱い確認が必要 |
税額が読める簡易シミュレーション表を持つ
最終的には課税譲渡所得に税率を掛けるだけなので、表にしておくと迷いが減ります。
税率は長期と短期で二段階に分けて保持します。
復興特別所得税は基準所得税額に2.1%という構造で理解します。
- 課税譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
- 所得税=課税譲渡所得×15%または30%
- 復興特別所得税=所得税×2.1%
- 住民税=課税譲渡所得×5%または9%
- 合計税額=所得税+復興特別所得税+住民税
- 実務では端数処理や申告単位で差が出る
- 概算は意思決定用として割り切る
確定申告の流れと必要書類
投資用不動産を売却して譲渡所得が出た場合、原則として確定申告が必要になります。
申告の全体像を押さえ、書類を先に揃えると計算が止まりません。
申告が必要かは譲渡所得の有無から逆算する
国税庁は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて利益がある場合は原則として確定申告が必要と整理しています。
まずは概算でよいので、譲渡所得がプラスかマイナスかを出します。
マイナスの場合でも、申告が有利になるケースがあるため個別検討が必要です。
| 一次情報 | 国税庁 不動産等を売却した方へ(確定申告特集) |
|---|---|
| 判断の軸 | 譲渡価額-(取得費+譲渡費用) |
| 必要性 | 利益がある場合は原則申告 |
| 注意 | 特例適用には申告が前提になることがある |
| 実務 | 売却年分の申告として時期を固定する |
必要書類は「売却」「取得」「費用」「償却」に分ける
書類が散らばると計算がやり直しになりやすいので、テーマ別に束ねます。
投資用は減価償却の根拠資料が追加で重要になります。
揃えた資料は、どの数字に使ったかメモを添えると再現性が上がります。
- 売買契約書(売却)
- 媒介契約書と仲介手数料の領収書
- 売買契約書(購入)
- 購入時の仲介手数料の領収書
- 登記費用や司法書士報酬の明細
- リフォームや設備工事の領収書
- 測量や解体の契約書と領収書
- 賃貸経営の減価償却計算書
- 確定申告書の控え(過年度分)
- 固定資産税評価証明等の補助資料
- 入出金の通帳コピーや振込記録
- 精算書(固定資産税等の精算を含む)
譲渡費用の領収書は「直接性」が説明できる形で残す
譲渡費用は売るために直接かかった費用という定義なので、説明できる形で保存します。
例えば測量費は、売買契約条件として必要だったことが説明できると整理がしやすいです。
請求書だけでなく、支払日が分かる資料も合わせて残します。
| 直接性の証拠 | 売買契約書の条件条項 |
|---|---|
| 支払の証拠 | 領収書、振込明細 |
| 対象例 | 仲介手数料、測量費、印紙代 |
| 対象外になりやすい | 保有中の管理費や修繕費 |
| 根拠 | 国税庁 No.3255 |
買換えで税負担を繰り延べる選択肢も知っておく
投資用不動産の再投資を前提にする場合、一定要件下で譲渡益課税の一部を将来に繰り延べる制度があります。
これは非課税ではなく繰延べであり、将来売却時に効いてきます。
適用要件が厳格なので、早い段階で制度の入口を確認します。
- 事業の用に供している資産が対象になる
- 一定期間内の買換えと事業供用が要件になる
- 繰延べは資金繰りには効くが税が消えるわけではない
- 買換資産の取得価額の引継ぎが将来の税に影響する
- 書類の提出を伴うため申告準備が重要になる
- 判断は税理士等と要件確認を前提に進める
- 制度の一次情報を先に読むと誤解が減る
税金計算の要点を先に整理して行動に移す
投資用不動産売却の税金計算は、譲渡所得の基本式に、建物取得費の減価償却調整と所有期間の税率判定を正しく載せる作業です。
まずは譲渡価額を契約書から置き、取得費と譲渡費用を国税庁の定義に沿って仕分けていきます。
次に建物の取得費は減価償却費相当額を差し引く前提で作り直し、年次の根拠資料を揃えます。
最後に売却年の1月1日時点で長期短期を判定し、税率と復興特別所得税の構造を踏まえて税額を概算します。
この順番で試算を一度作っておくと、売却時期の判断や買換えの検討が数字ベースで進み、手元資金の見通しも立てやすくなります。

