学校法人が不動産を売却したいとき、民間企業と同じ感覚で売買契約へ進むと手続きで止まることがあります。
理由は、学校法人には「教育目的のための財産を守る」前提で、寄附行為や所轄庁の関与が設計されているからです。
特に、基本財産に当たる不動産は処分制限が強く、許可や認可、承認、届出が絡む可能性があります。
この記事は「学校法人 不動産売却 許可」で検索する人が最初に知りたい線引きと、手続きの流れを実務目線で整理します。
学校法人の不動産売却は所轄庁の許可が必要な場合がある
結論として、学校法人の不動産売却は「どの財産区分か」「寄附行為でどう定めているか」「所轄庁の手続き要否」が分岐点になります。
許可が要るかどうかは、物件そのものよりも、学校法人の内部規程と監督制度の枠組みで決まります。
迷った時点で、所轄庁への事前相談を挟む設計にしておくと、契約のやり直しや理事会の再決議を避けやすくなります。
許可が必要かは「基本財産かどうか」で分かれやすい
学校法人の財産は、一般に基本財産と運用財産などに区分され、基本財産は教育目的の中核として扱われます。
文部科学省の寄附行為作成例では、基本財産は原則として処分できず、やむを得ない理由がある場合に限り理事会決議で一部処分できる形が示されています。
まずは当該不動産が財産目録でどの区分に載っているかを確認し、基本財産であれば「処分制限+所轄庁手続き」を前提に検討を始めます。
参照先として、寄附行為作成例の該当条文は文部科学省のPDFで確認できます。
所轄庁は「文部科学大臣」か「都道府県知事」かで変わる
学校法人は所轄庁の監督を受け、法人の区分によって所轄庁が異なります。
大学を設置する大臣所轄法人と、都道府県知事所轄法人では、求められる事前相談先や様式、審査観点がズレることがあります。
自法人がどちらに該当するかは、認可時の資料や法人登記、寄附行為の記載で確認できます。
制度の全体像は文部科学省の「学校法人制度の概要」が整理されています。
最初に見るべきは寄附行為の「基本財産」「処分」「議決要件」
不動産売却の許可要否を判断する前に、寄附行為で基本財産の定義と処分の手続きがどう書かれているかを確認します。
多くの法人では、基本財産の処分に特別決議を要求し、理事総数の3分の2以上などの高い要件が置かれています。
実例として、ある学校法人の寄附行為では「基本財産中の不動産の処分」を3分の2決議事項として明示しています。
参考例は学校法人の寄附行為PDFのように公開されていることがあります。
「なぜ売るのか」を教育事業の言葉で説明できる形にする
所轄庁の手続きがある場合、売却の合理性は「教育活動への支障の有無」と「代替手当ての有無」で見られます。
遊休地の整理、校舎建替の原資確保、借入金の整理など、目的を教育事業の継続性と結び付けて説明できるようにします。
逆に、投機的な売買や目的外の運用に見える説明は、審査や内部合意のリスクを上げます。
私立学校法の枠組みは条文ベースでe-Gov法令検索で確認できます。
補助金で取得した不動産は「補助金側の承認」が別に要ることがある
校舎整備などで国庫補助や補助金を受けて取得した財産は、処分制限期間や承認手続きが別制度でかかる場合があります。
この場合の論点は学校法人制度というより、補助金適正化の観点で「交付目的外処分」にならないかです。
補助金の承認が必要なのに先に売却すると、返還や国庫納付の論点が出る可能性があります。
処分制限や承認申請の考え方は、例えば文部科学省の財産処分手続資料のような整理が参考になります。
抵当権や借入金が絡むと「担保」「返済計画」がセットで問われる
不動産が担保に入っている場合、売却は金融機関との調整が前提になり、抵当権抹消や一括返済の段取りが必要です。
所轄庁手続きがあるケースでは、売却後の資金使途や返済計画の妥当性が説明資料として求められやすくなります。
内部的にも「資金繰りの改善なのか」「教育投資への振替なのか」を理事会で言語化しておくと、議事録の品質が上がります。
許可前に契約すると「条件未成就」「法人手続き不備」の火種になる
所轄庁の許可や寄附行為上の特別決議が必要なのに、先に売買契約を確定させると、契約不履行や手付解除の揉め事になり得ます。
実務では「所轄庁の許可取得を停止条件にする」など、契約条項でリスクをコントロールします。
ただし停止条件を入れても、スケジュール遅延や条件不成就時の費用負担は残るため、事前相談と内部決議を先行させる設計が安全です。
許可が必要になる典型パターンを整理する
学校法人の不動産売却で迷いが生まれやすいのは、「許可」「認可」「承認」「届出」が混在して見えるからです。
ここでは実務で遭遇しやすい分岐を、財産区分と手続きの観点で整理します。
基本財産に当たると「処分制限+所轄庁手続き」を疑う
基本財産に分類されている不動産は、寄附行為で処分制限が置かれていることが多いです。
さらに、所轄庁によっては基本財産の処分について、承認や認可などの行政手続きが求められる運用があります。
最初に「基本財産か」「処分すると財産目録や寄附行為の記載変更が必要か」をセットで見ます。
| チェック項目 | 財産目録の区分が基本財産か |
|---|---|
| よくある論点 | 処分理由のやむを得なさと教育事業への影響 |
| 内部手続き | 理事会の特別決議の要否 |
| 行政手続き | 所轄庁の承認・認可・届出の要否 |
運用財産でも「重要事項」として決議要件が重くなることがある
運用財産だから自由に売れると考えると、寄附行為の議決要件で止まることがあります。
法人によっては、重要な資産処分や多額取引を特別決議事項にしている場合があるからです。
最低限、次の観点で寄附行為と理事会規程を照合します。
- 一定額以上の取引を特別決議にしていないか
- 評議員会の意見聴取が必要な事項に当たらないか
- 学校運営に不可欠な施設の代替計画があるか
- 売却後の資金使途が予算・事業計画と整合するか
収益事業用財産は「目的適合性」と「利益相反」の視点が強くなる
収益事業用財産の売却は、教育事業の安定化に資するかという説明が重要になります。
関連当事者取引が疑われる構造だと、価格の妥当性や手続きの透明性が強く問われます。
理事・評議員・関係会社が絡むときは、利益相反管理のプロセスを先に設計します。
許可が不要でも「届出」や「事後の寄附行為手続き」が残る場合がある
行政手続きとして事前許可が不要でも、財産目録の更新や、所轄庁への報告・届出が必要になることがあります。
また、売却により基本財産の構成が変わるなら、寄附行為変更の認可や届出が問題になる場合があります。
判断は所轄庁ごとの運用差が出やすいため、早い段階で所轄庁窓口に確認します。
- 売却後の財産目録の更新方法
- 予算・事業計画の変更が必要か
- 寄附行為変更の要否
- 決算・監査での開示方法
所轄庁への申請までに法人内で決めること
外部への申請や不動産会社選定の前に、法人内の意思決定を固めることが最短ルートになります。
ここが曖昧だと、申請書の理由が弱くなり、審査も契約も不安定になります。
理事会と評議員会の位置付けを先に整理する
学校法人は理事会が業務決定機関ですが、重要事項について評議員会の関与が求められる設計になっています。
文部科学省の説明でも、基本財産の処分など重要事項は理事総数の3分の2以上の特別決議が一般的とされています。
自法人の寄附行為がどう定めているかを前提に、決議フローを一枚にします。
| 論点 | 基本財産処分が特別決議事項か |
|---|---|
| 必要になりやすい場面 | 校地・校舎の売却、代替取得、担保抹消 |
| 確認資料 | 寄附行為、理事会規程、評議員会規程 |
| 参考 | 学校法人制度の概要 |
売却条件は「価格」「方法」「相手方」の順で固める
売却価格を先に決めるより、価格の決め方を決めるほうが内部合意が作りやすいです。
鑑定評価や複数査定、一般競争入札など、透明性の高い方法を採るほど説明コストが下がります。
決めるべき要素を最初に棚卸しします。
- 最低売却価格の根拠
- 売却方法の選択理由
- 売却後の資金使途
- 教育施設の代替計画
- スケジュールと停止条件の方針
反対意見が出たときは「教育の支障」と「代替案」で整理する
不動産売却は感情論になりやすく、地域や卒業生の目線も絡みます。
議論が割れたときは、教育活動の継続性に支障がないことと、売却益の使途が教育に資することを軸に戻します。
この軸が定まると、所轄庁への説明と監査対応も一貫しやすくなります。
議事録と資料は「後から読んでも分かる」粒度にする
所轄庁の審査や後日の監査では、当時の意思決定が合理的だったかが見られます。
そのため議事録は、結論だけでなく、検討した選択肢と採用理由まで残すのが安全です。
添付資料の体裁は所轄庁ごとに求めが違うため、早めに様式や手引きを確認します。
参考として、所轄庁手続きの考え方や申請の留意点は文部科学省の「届出・申請の手引」に関連情報があります。
申請書類と審査で見られるポイント
所轄庁への許可や承認が必要な場合、書類の完成度がそのまま審査期間に影響します。
形式を整えるだけでなく、教育事業としての合理性が読み取れる構成にします。
添付書類は「法人」「物件」「意思決定」「資金使途」に分ける
添付書類は多くなりがちなので、分類して漏れを防ぎます。
実際の要否は所轄庁により異なるため、最終版は必ず所轄庁の指示に合わせます。
一般に想定される書類群は次の通りです。
- 寄附行為と関連規程
- 理事会・評議員会の議事録
- 財産目録と直近決算書類
- 売却理由書と教育への影響整理
- 査定書や鑑定評価書
- 売買スキームと資金使途計画
- 登記事項証明書と担保関係資料
審査で止まりやすい論点を先回りで潰す
審査で止まりやすいのは、必要性が弱い、価格が不透明、代替計画がない、の3点です。
また、関係者取引や随意契約のときは、特に価格妥当性と公正性が問われます。
申請書の「理由」と「効果」に、数字と事業計画の整合を入れます。
| 止まりやすい点 | 売却の必要性が抽象的 |
|---|---|
| 対策 | 老朽化、維持費、利用実態を数値で示す |
| 止まりやすい点 | 価格根拠が弱い |
| 対策 | 鑑定・複数査定・入札など透明性を確保する |
| 止まりやすい点 | 教育施設の代替が不明 |
| 対策 | 代替地・代替施設・運営計画を同時に示す |
スケジュールは「相談→決議→申請→許可→契約→登記」の順で組む
不動産売却は相手方の都合で契約締結日が先に決まりがちですが、学校法人は手続き順を逆にしない設計が重要です。
特に許可が必要なケースでは、許可前に決済や引渡しを組むと、実行不能になります。
まずは所轄庁の審査期間を見込み、契約書の停止条件と引渡し日を連動させます。
許可後に「寄附行為」「財産目録」「会計処理」を更新する
許可が出たら終わりではなく、売却実行後に法人の基礎資料を更新します。
財産目録の更新と決算での表示、必要なら寄附行為変更の手続きまで視野に入れます。
この後工程が遅れると、監査や評議員会への報告で齟齬が出やすくなります。
売買契約と登記で失敗しない実務
学校法人の不動産売却では、契約実務そのものより「契約のタイミング設計」で事故が起きやすいです。
許可や決議の条件を契約条項で吸収しつつ、相手方との交渉を成立させる設計が重要です。
契約は「停止条件」と「解除条項」で手戻りを小さくする
所轄庁の許可や法人内決議が必要な場合、契約は条件付きにしておくのが基本です。
停止条件が不成就になったときの費用負担や手付の扱いまで、条項で明確にしておきます。
契約条項でよく論点になる項目を整理します。
| 条項テーマ | 所轄庁許可の取得を停止条件にする |
|---|---|
| 条項テーマ | 不成就時の解除と手付の扱いを定める |
| 条項テーマ | 引渡し日を許可取得後に固定する |
| 条項テーマ | 境界未確定や瑕疵の責任範囲を調整する |
売却先の選定は「透明性」と「説明可能性」を優先する
学校法人の取引は外部からの目も強いため、誰が見ても納得しやすい選定プロセスが武器になります。
複数社の査定や入札は手間ですが、後から説明するコストを下げます。
実務で採られやすい選定方法は次の通りです。
- 一般競争入札で市場性を示す
- 複数社査定で価格帯を固定する
- 鑑定評価で合理性を補強する
- 随意契約は理由と比較資料を必ず残す
境界と法的リスクは「売る前に」潰すほど高く売れやすい
土地の境界未確定、越境、地中埋設物、土壌汚染、アスベストは、価格交渉で必ず材料になります。
学校施設は築年数が長いことも多く、解体や改修の見積りが買主のリスク評価になります。
事前に調査範囲を決め、売却条件に反映させると、交渉が短くなります。
登記と抵当権抹消は「金融機関の段取り」で時間が溶ける
抵当権の抹消や一部抹消が必要な場合、司法書士だけでなく金融機関の稟議も絡みます。
決済日の直前に動くと間に合わないことがあるため、許可申請と並行して抹消条件の合意を取ります。
特に担保差替が必要なケースは、売却益の使途と併せて計画に組み込みます。
教育事業と財務を守りながら売却を進める要点
学校法人の不動産売却は、許可の有無だけでなく「説明できる意思決定」と「契約の安全設計」が成否を分けます。
最初に財産目録と寄附行為で基本財産かどうかを確認し、所轄庁の手続きが必要かを早期に見立てます。
次に、理事会や評議員会の決議フローを固め、売却理由と資金使途を教育事業の言葉で一貫させます。
そのうえで、価格の根拠を鑑定や複数査定、入札で補強し、透明性の高い選定プロセスを組み立てます。
最後に、許可取得を停止条件にした契約設計と、登記・担保抹消の段取りを前倒しにして、手戻りを最小化します。
制度の条文や基本的な枠組みは私立学校法と学校法人制度の概要を起点に確認し、最終判断は必ず所轄庁の運用に合わせて進めます。

