不動産を売却するときに不安になりやすいのが、引渡し後に見つかる不具合の責任問題です。
いわゆる瑕疵担保責任という言葉は今も使われますが、実務の押さえどころは契約書に書いた内容と合っているかに移りました。
売主は「知らなかった」で終わらず、買主は「どこまで求められるか」を誤解しないことがトラブル予防の近道です。
本記事では、契約不適合責任の基本から、売主・買主それぞれの準備と交渉ポイントまでを整理します。
最後まで読めば、契約書で決めるべき項目が見え、想定外の請求を避けやすくなります。
不動産を売却するときの瑕疵担保責任は契約不適合責任に置き換わった
結論として、現在の不動産売買では「瑕疵担保責任」というより「契約不適合責任」という考え方で整理すると実務が噛み合います。
ポイントは、欠陥の有無そのものより、契約で合意した種類・品質・数量に適合しているかで判断される点です。
呼び名が変わっただけではなく考え方が変わった
従来の瑕疵担保責任は「隠れた瑕疵」のように見えにくさが論点になりやすい仕組みでした。
契約不適合責任では「契約の内容に適合しないか」が中心になり、契約書と説明資料の重要性が上がります。
法令の条文は電子政府の法令検索で確認できるため、迷ったら一次情報に当たる癖を付けると安心です。
民法(e-Gov 法令検索)を参照しつつ、契約書で何を合意したかを軸に考えるのが安全です。
買主が請求できる主な手段を先に把握する
契約不適合があると、買主は修補などの追完、代金減額、損害賠償、解除といった選択肢を検討します。
ただし不動産は特定物のため、代替物の引渡しが現実的でないなど、実務上の落としどころが出ます。
請求の全体像は住宅金融普及協会の解説が整理されており、初学者でも流れを掴みやすいです。
不動産売主の契約不適合責任(住宅金融普及協会)を併読すると整理が早まります。
買主の通知期限がトラブルの分岐点になる
契約不適合を知った後の通知が遅れると、主張が難しくなることがあります。
実務では「いつ知ったか」と「いつ通知したか」が争点になりやすいため、買主は記録を残すことが重要です。
売主側も、通知の受領日と内容を文書で残しておくと後の食い違いを減らせます。
期限の考え方は民法の規定と解説で確認し、契約で短縮・延長の有無があるかも合わせて見ます。
個人売主と宅建業者が売主のケースで重さが変わる
売主が事業者である場合、消費者保護の観点から免責や責任制限が実務上通りにくいことがあります。
一方で個人間売買では、合意により責任範囲を調整する余地が比較的大きくなります。
ただし「何でも免責」で押し切ると、後で紛争化しやすく、価格交渉でも不利になりがちです。
立場により交渉の筋が変わるため、仲介会社や専門家に論点を早めに確認するのが現実的です。
最重要は契約書で「適合の基準」を具体化すること
契約不適合の判断は、最終的に契約内容の読み取りに戻ってきます。
設備や雨漏り歴のように争点化しやすい項目は、現況・保証の有無・範囲を具体化すると衝突が減ります。
口頭説明は後で記憶違いが起きやすいので、書面化して双方が同じ前提で署名するのが安全です。
不安が残る場合は、特約文言をテンプレのまま使わず、取引の実態に合わせて整えます。
売主が先にやるべき準備は「説明できる状態」を作ること
売主の対策は、隠すことではなく、現況を整理して合意形成しやすい材料を揃えることです。
結果として価格交渉がスムーズになり、引渡し後の紛争コストも下がります。
物件状況等報告書と付帯設備表で説明を固定する
中古住宅の取引では、売主が把握している不具合や修繕歴を整理して伝えることが重要です。
説明内容を紙に落として固定すると、重要事項説明や契約書作成の精度が上がります。
| 書面 | 物件状況等報告書 |
|---|---|
| 目的 | 既知の不具合・修繕歴の共有 |
| 書面 | 付帯設備表 |
| 目的 | 設備の有無・状態・不具合の明確化 |
| 参考 | 物件状況等報告書 記入上のご注意(国土交通省資料) |
「分からない」は空欄ではなく、分からない理由と確認方法を合わせて示すと誠実です。
インスペクションで「見える化」して合意しやすくする
インスペクションは、第三者が目視等で劣化事象や不具合の状況を把握し、報告する仕組みです。
売主にとっては説明の根拠になり、買主にとっては購入判断の材料が増えます。
- 雨漏り・外壁クラックの兆候を早期に把握
- 床下・小屋裏など見えにくい部分の確認範囲を共有
- 修繕の要否を「推測」と「確認済み」に分けられる
- 結果を契約の特約とセットで整理しやすい
制度の概要は国土交通省の説明ページとガイドラインで押さえると判断がしやすいです。
インスペクション(国土交通省)と既存住宅インスペクション・ガイドラインを確認してください。
告知と免責のバランスを価格とセットで考える
不具合を正直に告知すると値下げが怖いと感じることがあります。
しかし告知を曖昧にすると、引渡し後の請求リスクが上がり、結果として負担が大きくなりやすいです。
現況渡しや免責を入れる場合でも、どこまでを免責にするかを具体的にしないと逆に揉めます。
価格と責任範囲はトレードオフなので、買主が納得できる説明材料を揃えて交渉するのが現実的です。
引渡し後に連絡が来たときの受け止め方を決めておく
引渡し後の連絡は感情的になりやすく、初動で拗れると解決が遠のきます。
まずは相手の主張を整理し、事実関係の確認と記録化を優先すると不要な対立を避けられます。
- 連絡日と内容を記録し、口頭だけで進めない
- 写真・動画・見積書などの根拠を依頼する
- 仲介会社や専門家を同席させて認識を揃える
- 修補か減額かなど、解決手段の選択肢を比較する
結論を急がず、契約書と告知書面との整合を確認してから対応方針を固めます。
買主は「契約に書いてある品質」を自分の言葉で説明できるかが鍵
買主の対策は、購入前に不安を潰し、契約文言で期待値を固定することです。
見学の印象だけで進めると、引渡し後に「想像と違う」を法的責任にすり替えやすくなります。
契約書で不適合の対象を言語化しておく
不適合の判断は、買主の主観ではなく、合意した内容に照らして行われます。
そのため「どの状態なら許容するか」を契約書の表現に落とすことが重要です。
| 項目 | 雨漏り |
|---|---|
| 合意例 | 過去歴の有無と修繕内容を明記 |
| 項目 | シロアリ |
| 合意例 | 防蟻処理の時期と保証の有無 |
| 項目 | 設備 |
| 合意例 | 動作確認の範囲と故障時の扱い |
曖昧な期待は後で紛争になるため、気になる項目ほど具体語に落とします。
内見と現地確認は「証拠が残る形」で行う
現地確認は、購入のためだけでなく、後の認識ズレを防ぐ役割もあります。
確認した事実を残すと、後で「言った言わない」が起きにくくなります。
- 写真は日付が残る形で保存し、場所が分かる構図で撮る
- 気になる点は仲介会社を通して書面で質問する
- 修繕歴は口頭で済ませず、資料や見積で裏付ける
- 境界や越境は測量図など客観資料を確認する
納得できない点があるなら、契約前に条件化し、後回しにしない姿勢が重要です。
購入後に発生し得る費用を前提に資金計画を作る
中古住宅では、購入後にメンテナンス費が出ること自体は珍しくありません。
そのため「修繕が必要になった=直ちに契約不適合」と短絡しない視点が必要です。
想定される修繕を事前に見積もり、価格交渉か特約か、どちらで吸収するかを考えます。
資金計画に余裕があるほど交渉は冷静になり、結果として判断の質が上がります。
交渉では「責任を減らす」より「合意を増やす」を優先する
買主が安心して購入できる材料が増えるほど、売主の免責を受け入れやすくなります。
逆に材料が少ないのに免責だけが強いと、買主は価格で調整しようとします。
インスペクション結果や告知書面をベースに、合意事項を増やすと双方が納得しやすいです。
結局は、価格と条件のセットで合意する取引だと捉えるのが現実的です。
よく揉める不具合はパターンがあるため先回りして潰す
契約不適合の紛争は、頻出する不具合の型に当てはまることが多いです。
型を知っておけば、告知・検査・特約のどこで手当てするかを決めやすくなります。
雨漏りは原因特定が難しいため説明の粒度が重要
雨漏りは再現性が低く、引渡し直後は症状が出ないことがあります。
そのため「過去にあったか」「どこをどう直したか」を資料で示すだけでも揉めにくくなります。
- 過去の発生箇所を図示して共有する
- 修繕の領収書や工事内容を提示する
- 再発リスクの説明は断定せず条件付きで行う
- 不安が大きい場合は事前に点検範囲を合意する
売主も買主も、事実と推測を分けて伝える姿勢が結果的に損を減らします。
シロアリは「有無」だけでなく履歴と範囲が争点になりやすい
シロアリは発見のタイミングで印象が大きく変わり、交渉が一気に難航しやすいです。
防蟻処理や保証の履歴を整理しておくと、判断基準が作りやすくなります。
| 確認したい情報 | 被害の有無と発見時期 |
|---|---|
| 確認したい情報 | 防蟻処理の実施時期 |
| 確認したい情報 | 保証書の有無と期限 |
| 確認したい情報 | 床下点検口の有無 |
疑いがあるなら、契約前に追加調査を条件にする方が後で揉めにくいです。
給排水の詰まりや漏水は「生活に直結」するため初動が早い
給排水は使用開始直後に症状が出ることがあり、買主からの連絡が早い傾向です。
設備の経年劣化と不適合の切り分けが難しいため、設備表の精度が影響します。
売主は動作確認の範囲を明確にし、買主は引渡し直後に点検して記録を残します。
小さな違和感でも放置せず、通知と証拠の整備を優先すると紛争化しにくいです。
境界・越境は費用と時間がかかるため契約前の確認が効果的
境界や越境は、補修ではなく権利関係の調整になるため、解決に時間がかかりがちです。
現地で分かりにくい場合は、測量図や境界標の有無を資料で確認します。
- 境界標の有無を写真で残す
- 古い図面しかない場合は測量の要否を検討する
- 越境が疑われる場合は相手方との協議方針を決める
- 契約に引渡し条件として整理できるか検討する
後からの発覚は負担が増えやすいので、早期に論点化することが重要です。
特約で調整できるが「一律テンプレ」は危険になりやすい
契約不適合責任は、一定の範囲で特約により調整されます。
ただし強い免責は取引条件に跳ね返りやすく、買主の不信感も招きやすい点に注意が必要です。
免責条項は「対象」と「理由」を揃えると揉めにくい
免責は、売主の責任をゼロにする魔法ではなく、合意の枠を作る道具です。
対象が曖昧だと、争いになったときに解釈が割れやすくなります。
| 書き方の軸 | 対象を列挙して限定 |
|---|---|
| 書き方の軸 | 現況と資料を紐付け |
| 書き方の軸 | 買主確認済み事項を明記 |
| 注意点 | 不明点は条件化して放置しない |
買主が納得できる根拠があるほど、免責の合意は成立しやすくなります。
責任期間を短縮する場合は通知・手続きもセットで決める
特約で責任期間を調整する場合、期間だけを短くしても運用で揉めることがあります。
通知方法や証拠の提示方法までセットで決めると、実務が回りやすくなります。
- 通知は書面またはメールなど記録が残る方法に限定
- 不具合箇所の写真提出を要件化
- 修補の可否を判断する立会い手順を明記
- 仲介会社を窓口にするかを事前に合意
運用設計まで落とすと、感情論に引っ張られにくくなります。
表明保証と契約不適合の違いを混同しない
表明保証は、一定の事実が真実であることを表明し保証する考え方です。
契約不適合は、目的物が契約内容に適合しているかを中心に責任が組み立てられます。
条項の名前が似ていても射程が違うため、使うなら目的に合わせて設計します。
企業間取引や投資用物件では特に、条項の切り分けが重要になります。
専門家に相談した方がよい典型パターンがある
争点が大きい取引では、契約前に専門家を入れる方がコストが安く済むことがあります。
特に権利関係や建物の重大不具合が絡む場合は、後戻りが難しいため早期相談が有効です。
- 雨漏りの再発や構造に影響する疑いがある
- 境界確定が未了で越境の疑いがある
- 過去の大規模修繕や事故歴の説明が難しい
- 免責や責任期間の交渉が平行線になっている
相談先は仲介会社だけでなく、建築士や弁護士など論点に合う人を選びます。
取引を安全に進めるコツは「資料化」と「合意の見える化」にある
不動産を売却するときの瑕疵担保責任は、現在は契約不適合責任として整理するのが実務的です。
売主は告知書面と検査で説明の根拠を作り、買主は契約で期待値を言語化すると衝突が減ります。
よく揉める雨漏りやシロアリなどは型があるため、契約前に論点化して潰すのが効果的です。
特約は万能ではなく、対象・手続き・証拠までセットで決めるほど実務が安定します。
不安が残る場合は一次情報と専門家を活用し、契約書に合意を積み上げてから署名すると安心です。

