離婚に伴う財産分与で不動産をどう扱うかは、感情の問題だけでなく税金と手続きで結果が大きく変わります。
とくに「不動産を相手に渡す」「売却して現金で分ける」「ローンが残っている」などの条件で、負担者や必要書類が入れ替わります。
先に全体像を押さえてから合意書を作ると、あとで名義変更や申告で詰まる確率を下げられます。
ここでは、日本の制度を前提に、税金・登記・ローンの実務ポイントを整理します。
不動産売却(財産分与)の税金は原則どうなる?
結論として、現金で精算するほど税務は単純で、不動産を移転すると「渡した側」に譲渡所得課税が起き得ます。
一方で、贈与税や不動産取得税は原則かからない整理がされやすいものの、分与の内容次第で例外もあります。
まずは「誰にどの税目が乗るか」を最初に決め、次に登記とローンの処理順を合わせるのが近道です。
現金で清算すると税務がシンプルになりやすい
不動産を売却して現金化し、その現金を分ける形は、名義移転を伴わないため論点が絞られます。
ただし売却自体には譲渡所得の計算が必要で、取得費や譲渡費用を集める作業は避けられません。
売却後の入金口座や分配タイミングまで合意しておくと、未払いトラブルを減らせます。
- 売却益の分け方(割合と支払期限)
- 売却費用の負担(仲介手数料・測量等)
- 税金の見込みを踏まえた分配額
不動産を渡すと「渡した側」に譲渡所得が起き得る
離婚に伴い土地建物などを渡した場合、渡した側が経済的利益を得たものとして譲渡所得の対象になり得る扱いがあります。
国税庁のタックスアンサーでも、離婚により土地建物などを渡したときの考え方が整理されています。
譲渡所得の基本式は「収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」で、時価ベースの判断が絡むのが難所です。
| 場面 | 不動産を相手に移転して分与する |
|---|---|
| 主な税務論点 | 分与した側の譲渡所得(所得税・住民税) |
| 一次情報 | 国税庁:離婚して土地建物などを渡したとき |
受け取った側は「取得」として扱われる論点が出る
受け取った側は、将来その不動産を売るときに取得日や取得費が重要になります。
取得費は「買ったときの代金そのまま」にならない場面もあり、建物は減価償却相当額を控除して計算する整理があります。
ローン付きで取得した場合は、住宅ローン控除の適用可否が別途論点になり得ます。
- 国税庁:建物の取得費の計算
- 国税庁:財産分与により住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)
- 将来売却時の取得費資料(契約書・領収書等)
離婚前に名義を動かすと税目が変わることがある
「離婚を前提にしているから大丈夫」と考えて離婚成立前に移転すると、財産分与ではなく贈与として扱われるリスクが上がります。
財産分与は離婚という法律効果により発生するため、登記実務でも離婚後の申請が原則になります。
手続きの順番を誤ると、税金だけでなく金融機関対応もやり直しになり得ます。
- 合意書作成→離婚成立→名義変更(登記)
- 離婚成立前に移転しない運用
- 例外を作らないための期限設定
住宅ローンが残ると「売る前の整地」が増える
ローン残債がある不動産は、売却で完済するのか、片方が引き継ぐのかで進め方が変わります。
連帯債務・連帯保証が残ると、離婚後も相手の返済に巻き込まれる形になりやすい点が実務上の盲点です。
金融機関は「離婚したので名義だけ変えたい」をそのまま受けないことが多いため、事前相談が必要になります。
| 選択肢 | 売却して完済/借換で単独化/債務引受を検討 |
|---|---|
| 詰まりやすい点 | 連帯債務・連帯保証の解消可否 |
| 実務の優先順位 | ローン整理→登記→分配の順に設計 |
最初に作るべきは「税金と手続きの見取り図」
財産分与の不動産は、税・登記・ローンが同時進行しやすいので、先に全体の段取り表を作るとブレません。
売却か移転かを決めたら、誰がどの費用を持つかを数字で置き、最後に書面化します。
ここで曖昧なまま進むと、登記申請や確定申告の段階で「聞いてない」が起きやすくなります。
- 不動産の扱い(売却/移転/共有維持)
- 税金の当事者(譲渡所得の想定負担者)
- 登記費用とローン手続きの担当
財産分与で不動産を渡すときの譲渡所得を押さえる
不動産を相手に移転して清算する場合、分与した側に譲渡所得が課税される可能性がある点が最大の注意点です。
譲渡所得は「売ったとき」だけでなく、経済的利益が認められる形でも論点になります。
判断は個別事情で動くため、一次情報の計算式と特例の要件を手元に置いて検討すると安全です。
譲渡所得は「時価の収入がある」前提で計算されやすい
譲渡所得は土地建物を譲渡したときに生じ、収入金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
不動産移転の財産分与でも、時価相当の収入があると整理される場面があるため、時価の把握が重要になります。
計算の土台となる式は国税庁のタックスアンサーで確認できます。
| 計算式 | 収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額 |
|---|---|
| 一次情報 | 国税庁:譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき) |
| 関連 | 国税庁:離婚して土地建物などを渡したとき |
取得費と譲渡費用は「集めた分だけ」精度が上がる
取得費は購入代金だけでなく、購入時の手数料等が含まれる一方、建物は減価償却相当額の控除が必要です。
譲渡費用は売るために直接かかった費用に限られ、何でも入るわけではありません。
資料がないと概算取得費の扱いになることもあるため、手元資料の棚卸しが最優先になります。
居住用の特例は「要件に当たるか」で明暗が分かれる
マイホームを売った場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。
現在住んでいる家だけでなく、過去に居住していた家でも条件により適用できる整理があります。
財産分与の設計で「誰がいつまで住むか」が変わると、特例の使い勝手も変わり得ます。
| 主な特例 | 居住用財産の3,000万円特別控除 |
|---|---|
| 一次情報 | 国税庁:マイホームを売ったときの特例 |
| 補足 | 国税庁:過去に居住していたマイホームを売ったとき |
確定申告は「分与の書面」と「計算根拠」をセットで持つ
譲渡所得が出る可能性があるなら、確定申告で計算根拠を説明できる状態が必要です。
不動産の時価把握、取得費資料、売却関連費用、分与の合意書や調停調書などを整理しておくと、確認が入っても対応しやすくなります。
不安がある場合は、税務署や税理士に「前提事実」を揃えて相談する方が結論が早くなります。
- 取得費の資料(売買契約書・領収書・ローン明細等)
- 譲渡費用の資料(仲介手数料等)
- 分与の根拠資料(合意書・調停調書等)
贈与税・不動産取得税は原則かからないが例外がある
離婚に伴い財産を受け取っても、通常の贈与と同じ扱いにならない整理が用意されています。
ただし、分与が社会通念上過大だと贈与とみなされる余地があり、設計でリスクが変わります。
不動産取得税も分与の性質によって扱いが変わり得るため、書面で「趣旨」をはっきりさせるのが基本です。
贈与税は「離婚して財産をもらったとき」の整理を確認する
離婚により財産をもらった場合の贈与税の考え方は、国税庁のタックスアンサーで示されています。
ポイントは、財産分与として相当な範囲に収まるかどうかで、形式より実質が見られます。
現金・不動産いずれでも「過大」判定の余地があるため、相当性の説明が重要です。
- 国税庁:離婚して財産をもらったとき
- 分与の根拠(共有財産の清算か)
- 分与割合の合理性(資料で説明できるか)
分与が過大だと「贈与認定」のリスクが上がる
例えば一方の婚姻中の寄与と無関係に、著しく偏った移転があると、相当な範囲を超えると評価され得ます。
税金回避目的の形だけの離婚などは、より厳しく見られる可能性があります。
安全側に寄せるなら、評価額の根拠と分与趣旨を合意書に残すのが実務的です。
| リスクが上がる例 | 分与割合が極端/根拠資料がない |
|---|---|
| 対策 | 評価根拠の添付/趣旨を明文化 |
| 一次情報 | 国税庁:離婚して財産をもらったとき |
不動産取得税は「分与の性質」で扱いが変わり得る
不動産取得税は、不動産の取得に対して課される地方税であることが条文上の出発点です。
清算的な財産分与としての取得は非課税と整理される場面がある一方、性質が異なると判断が変わり得ます。
都道府県の運用も絡むため、実際には所管の県税事務所に確認するのが確実です。
- e-Gov法令検索:地方税法
- 分与の趣旨(清算か、慰謝料性か)
- 不動産取得税の判断は自治体実務も確認
登記費用は税目が別なので早めに見積もる
贈与税や不動産取得税と別に、名義変更の登記には登録免許税などの費用が発生します。
「税金はかからないと思っていたのに費用が大きい」というズレが起きやすいので、固定資産評価額で早めに概算します。
費用負担者を合意書で決めておくと、手続きが止まりにくくなります。
| 費用の例 | 登録免許税/司法書士報酬/必要に応じて公証費用 |
|---|---|
| 一次情報 | 国税庁:登録免許税の税額表 |
| 課税標準 | 固定資産課税台帳の価格が原則 |
名義変更の登記を通すための実務ポイント
財産分与で不動産を移転するなら、最終的に所有権移転登記を申請して名義を変える必要があります。
登記の要は「登記原因」と「原因証明情報」で、書面の形が整っていないと補正になりやすい分野です。
税務と同様に、先に必要書類を揃える設計にすると遠回りを防げます。
登記原因は「財産分与」として離婚後に申請するのが原則
財産分与は離婚によって発生する効果であるため、登記申請も離婚成立後の流れが基本です。
協議離婚なら、離婚届提出日や協議成立日の整理が登記原因日付に関係します。
原因証明情報に何を書くかは法務局資料で確認できます。
- 法務局:登記原因証明情報(財産分与の記載例を含む資料)
- 離婚成立を示す資料(戸籍等)
- 合意内容が読める書面(協議書・調停調書等)
必要書類は「本人確認」と「合意の証拠」を厚くする
登記は当事者の意思と原因事実が立証できる形で整える必要があります。
協議書の場合は署名押印だけでなく、内容が特定できる記載が重要です。
不動産の表示(地番・家屋番号等)が曖昧だと補正になりやすいので、登記事項証明書に合わせます。
| カテゴリ | 代表例 |
|---|---|
| 原因の証拠 | 協議書/調停調書/審判書など |
| 不動産特定 | 登記事項証明書に合わせた表示 |
| 参考資料 | 法務局資料 |
登録免許税は「固定資産評価額×税率」で概算する
所有権移転登記には登録免許税がかかり、課税標準は固定資産課税台帳に登録された価格が原則です。
税率は登記内容により異なるため、該当する区分を税額表で確認します。
100円未満切捨てなど端数処理もあるため、実額は申請前に最終確認すると安心です。
| 概算の形 | 固定資産評価額×該当税率 |
|---|---|
| 一次情報 | 国税庁:登録免許税の税額表 |
| 計算例資料 | 法務局:登録免許税の計算例 |
協議書は「後で使う」前提で作ると強くなる
財産分与は合意時点では成立しても、登記や税務で第三者に説明できる形が必要になります。
協議書に不動産の特定、分与の趣旨、費用負担、期限、未履行時の対応を書いておくと実務が止まりにくいです。
公正証書化や調停手続の利用は状況次第ですが、争いが残るなら強制力の観点も検討対象になります。
- 不動産の表示を登記事項と一致させる
- 費用負担と期限を条項化する
- ローンの扱いを別条項で固定する
売却で分けるか移転で分けるかの判断基準
財産分与の不動産は「売却して現金化」が分かりやすい一方、住み続けたい事情があると移転や共有維持が候補になります。
どの案もメリットだけでなく、税務・登記・ローンの弱点があるため比較して決めるのが現実的です。
また、請求期限のルールが改正される予定があるため、時期も判断材料になります。
売却して現金で分けると合意後の摩擦が減りやすい
売却して現金で分ける形は、名義の帰属争いを引きずりにくいのが長所です。
一方で売却価格が想定より下がると分配額が崩れるため、最低売却価格や値下げルールを決めておくと揉めにくくなります。
売却費用と税金見込みを差し引いた「手取りベース」で合意すると、体感の不公平が減ります。
- 最低売却価格と値下げ幅のルール
- 仲介会社の選び方(複数査定など)
- 税金と費用を差し引く順番
住み続ける場合は「清算方法」を数値で決める
片方が住み続けるなら、相手の持分相当をどう清算するかが核心になります。
評価は机上だと揉めやすいので、査定や鑑定など第三者の数字を使うと合意形成が進みやすいです。
ローン残債がある場合は、純資産(評価額-残債)をベースに考えると整理しやすくなります。
| 論点 | 評価額の取り方/残債の扱い/支払方法 |
|---|---|
| よくある清算 | 代償金の一括/分割/売却時精算 |
| 注意点 | 税務・ローン・登記の順序を合わせる |
ローンと保証関係は「離婚後に残る義務」を見える化する
離婚しても、金融契約が残る限り返済義務や保証義務は自動で消えません。
名義だけ変えた結果、住んでいない側が返済リスクを背負い続ける構図は避けたいポイントです。
借換や債務引受の可否は個別審査なので、合意前に金融機関へ当たりを取ることが重要です。
- 連帯債務・連帯保証が残るか
- 借換で単独債務にできるか
- 返済が滞った場合の取り決め
財産分与の請求期限は改正予定があるので時期を意識する
現行法では財産分与の請求に期間制限があると整理されています。
一方で、2024年5月に成立した民法等改正により、請求できる期間を離婚後5年に伸長する方向が示されています。
施行日は政令で定められ、遅くとも公布から2年以内と案内されているため、離婚時期によって適用関係が変わり得ます。
| 一次情報 | 法務省:父母の離婚後の子の養育に関するルール改正パンフレット |
|---|---|
| 条文参照 | e-Gov法令検索:民法 |
| 実務上の示唆 | 離婚日と施行日で期限が変わり得る |
不動産を分ける前に決めるべき3つのこと
財産分与の不動産は、最初に「売却か移転か」を確定し、次に「税金の見込み」と「ローンの出口」を同じ紙に落とすのが要点です。
その上で、登記に通る形の書面を作り、費用負担と期限を条項で固定すると、実行フェーズで止まりにくくなります。
不確実性が高いのは時価評価とローン審査なので、第三者の数字と金融機関の回答を早めに取りに行くのが現実的です。
最後に、一次情報のページを手元に置きながら進めると、話し合いが「主張」から「事実ベース」に寄りやすくなります。
当事者だけで抱え込まず、税務は国税庁の整理を起点に、登記は法務局資料を起点に、必要に応じて専門家へ切り分けて相談するのが安全です。

