不動産売却では、売買契約を結んだのに買主がお金を払ってくれないというトラブルが起きることがあります。
決済日当日に振込が入らないケースもあれば、手付金や中間金は出たのに残代金が止まるケースもあります。
対応を誤ると、物件を引き渡したのに入金がない、再販売の機会を逃す、損害回収が難しくなるなどの実害が出ます。
この記事では、状況の切り分けから実務の動き方、契約解除や請求の考え方、再発防止の準備までを順序立てて整理します。
不動産売却で買主がお金を払ってくれないときの結論
結論は、引渡しと登記を止めて証拠を残し、期限を切った請求を行い、支払いがないなら解除や損害回収へ進むことです。
引渡しと所有権移転を先に止める
買主の入金が確認できるまで、鍵の引渡しや引渡確認書への署名、登記書類の交付を先送りにします。
決済は「代金支払い」と「引渡しや登記手続」が同時に進む設計が基本であり、先に渡してしまうと回収コストが跳ね上がります。
- 鍵の受け渡しをしない
- 登記原因証明情報などを司法書士に預ける
- 固定資産税等の精算は後日合意も可
- 受領確認は通帳反映や着金通知で行う
同時履行の考え方は実務解説としても整理されているため、全体像は解説記事も参考になります。
参考リンク:代金支払いと登記・引渡し(同時履行の抗弁権)。
まずは事実関係を時系列で固定する
相手の言い分に振り回されないために、いつ何を約束し、いつ支払いが必要で、いま何が未了なのかを時系列で固めます。
仲介会社が入っているなら、担当者の説明内容も含めてメモに残し、メールやチャットで記録を確定させます。
| 確認項目 | 契約日と決済日 |
|---|---|
| 支払状況 | 手付金・中間金・残代金 |
| 未了作業 | 引渡し・登記申請・残置物 |
| 関係者 | 仲介会社・司法書士・金融機関 |
| 証拠 | 契約書・領収書・メール・通話メモ |
証拠が揃うほど、請求や解除の場面で交渉が短くなります。
支払猶予のお願いは期限と条件をセットにする
買主から「数日待ってほしい」と言われたときは、口約束のまま延長しないことが重要です。
いつまでにいくらをどう支払うのかを具体化し、守れない場合の扱いまで決めると再燃しにくくなります。
- 猶予期限は日付で明記する
- 支払い方法は振込先と名義を明記する
- 遅延損害金や違約金条項の適用を確認する
- 期限徒過なら解除へ進むと事前に伝える
猶予の合意を作るなら、仲介会社にも同席してもらい、書面化のハードルを下げます。
請求を続けるか解除するかを早めに決める
売主の選択肢は大きく分けて、契約を維持して残代金を請求するか、契約を解除して再販売へ進むかの二択です。
どちらが得かは、買主の資力、購入動機、ローン状況、市場相場、売主の資金計画で変わります。
| 方針 | 向いている状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 履行請求 | 資金が確実に入る見込みが高い | 長期化で機会損失 |
| 解除 | 資金難や連絡不通で回復が薄い | 手続と再販準備が必要 |
| 再交渉 | 軽微な遅れで双方合意が可能 | 延長条件の曖昧化に注意 |
不動産実務の観点では、決済日に支払わない場合の売主対応が整理された解説もあります。
参考リンク:買主が決済日に代金を支払わなかったときの売主の対応。
手付金と違約金の条項を読み直す
買主が払わない局面では、手付解除の期限を過ぎているか、債務不履行解除の条項がどう書かれているかで打ち手が変わります。
特に「違約金は売買代金の何%」のような予定があると、損害の立証負担が軽くなることがあります。
- 手付解除の期限がいつまでか
- 債務不履行解除の要件がどう書かれているか
- 違約金の予定額や上限があるか
- 解除通知の方法が指定されているか
手付解除と履行の着手の考え方は、民法や実務解説で整理されています。
参考リンク:手付金と民法557条の説明。
引渡し後や登記後なら緊急度が上がる
先に鍵を渡して入居や使用を始められた場合、回収は交渉だけで終わらない可能性が高まります。
登記まで移っているなら、売主側の選択肢はさらに専門的になるため、弁護士へ早期相談するのが現実的です。
| 状況 | まずやること | 相談先 |
|---|---|---|
| 未引渡し | 引渡し停止と期限付き請求 | 仲介会社・司法書士 |
| 引渡し済み | 占有状況の確認と書面請求 | 弁護士 |
| 登記済み | 契約解除や回復手段の検討 | 弁護士・司法書士 |
時間が経つほど相手の居直りや転売などのリスクが増えるため、初動を急ぎます。
支払いが止まる典型パターンを先に切り分ける
買主が払わない理由は一つではなく、原因により最適な対応が変わるため、最初にパターン分けをします。
ローン不成立で資金が用意できない
住宅ローンが通らず資金が出ない場合は、ローン特約の有無と内容が最大の分岐点です。
ローン特約が適用されるなら解除の条件や提出書類が決まっているため、感情論にせず手続きを進めます。
| 確認ポイント | ローン特約の有無 |
|---|---|
| 必要資料 | 否決通知や審査結果 |
| 期限 | 特約期限と通知期限 |
| 次の一手 | 再審査か解除か |
ローン理由は口頭ではなく、金融機関の書面で裏付けると揉めにくいです。
決済直前の資金ショートが起きている
自己資金の引出制限、親族資金の遅れ、他物件の売却遅れなどで、決済直前に資金が足りなくなることがあります。
この場合は短期で回復する可能性もあるため、猶予を与えるなら条件を厳格にします。
- 不足額と入金予定日の提示を求める
- つなぎ資金の調達可否を確認する
- 猶予は一回限りと明記する
- 遅延損害金や追加手付の提案を検討する
曖昧な見込みだけで延長すると、売主側の引越しや買換え計画が連鎖的に崩れます。
登記完了まで払わないという誤解がある
買主が「登記が終わるまで払えない」と誤解している場合は、決済の標準フローを丁寧に説明するだけで解決することがあります。
実務上は登記申請書類の授受と代金支払いを同時に行う形で安全性を確保します。
| よくある誤解 | 登記完了後に支払う |
|---|---|
| 一般的運用 | 書類授受と支払いを同時 |
| 売主の守り | 書類は司法書士預かり |
| 参考 | 同時履行の解説 |
説明しても主張が変わらない場合は、誤解ではなく支払い能力の問題として扱います。
危険なサインが出ている
連絡がつかない、担当者を変えるよう迫る、現金手渡しを強要するなどの兆候があるなら、早期に解除寄りで検討します。
トラブル化すると仲介会社だけでは収束しづらいので、記録を整えたうえで専門家へ繋げます。
- 連絡手段が突然途絶える
- 支払い方法の変更を繰り返す
- 契約外の要求を通そうとする
- 第三者が交渉前面に出てくる
危険サインが重なるほど、猶予よりも安全確保を優先します。
売主が取れる法的な打ち手の流れ
買主の代金未払いは債務不履行に当たり得るため、売主は請求や解除などの手段を段階的に選べます。
同時履行を前提に引渡しを拒める
売買では、買主の代金支払いと売主の引渡しや登記協力はセットで動く関係になりやすいです。
そのため、入金がないのに引渡しだけ求められても、売主は応じない設計にできます。
| 売主が止める行為 | 鍵の引渡し |
|---|---|
| 売主が止める行為 | 登記書類の交付 |
| 確認すべき書類 | 売買契約書の決済条項 |
| 実務の要 | 司法書士預かりで安全確保 |
同時履行の運用が崩れると、未払い回収が一気に難しくなります。
催告して期限を切り解除へ進む
買主が支払わないときは、相当期間を定めて履行を催告し、それでも履行がないなら解除する流れが基本です。
催告解除の考え方は民法541条の枠組みとして整理されているため、条文の趣旨を踏まえて手続きを組み立てます。
- 書面で支払いを請求する
- 支払期限を日付で区切る
- 期限徒過なら解除すると予告する
- 解除通知を発送し再販準備へ移る
参考リンク:民法541条と催告解除の説明。
無催告解除に近い場面もある
買主が明確に支払不能を宣言した場合など、催告なしで解除が認められやすい整理もあります。
ただし、不動産の個別事情で判断が分かれるため、実務では催告を入れて安全側に倒すことも多いです。
| 典型例 | 支払不能の明言 |
|---|---|
| 典型例 | 履行拒絶の明言 |
| 注意点 | 証拠が曖昧だと争点化 |
| 参考 | 民法541条・542条の整理 |
解除の有効性は後から争われることがあるため、証拠作りが重要です。
損害賠償と違約金の範囲を整理する
解除できたとしても、引越し費用や仮住まい費用、再販までの管理費など損害が残ることがあります。
契約で違約金が予定されている場合は、実損と関係なく請求できる設計になっていることがあるため、条項を確認します。
- 違約金条項があれば金額を確認する
- 違約金がないなら実損の証拠を集める
- 仲介手数料の扱いを確認する
- 再販での値下げ分の評価に注意する
契約書の違約金条項の読み方は実務解説でも触れられています。
参考リンク:不動産売却時の契約書を読む際のポイント。
決済日に買主が払わないときの実務対応
決済日当日の未払いは、その場の動き方で結果が大きく変わるため、チェックリスト化して臨みます。
決済場所でその場でやること
決済場所で入金が確認できないなら、登記書類も鍵も渡さず、関係者に状況を共有します。
場を荒立てずに「入金確認まで手続は進められない」という一点で統一すると交渉がぶれません。
- 金融機関の振込手続の進捗を確認する
- 着金が反映される時刻を確認する
- 司法書士に書類の返却保管を依頼する
- 仲介会社に議事メモを作ってもらう
決済を延期するなら、延期合意書をその場で作るのが安全です。
内容証明で請求するときの要点
口頭の督促で動かない場合は、内容証明郵便で期限付きの支払請求を行うと姿勢が変わることがあります。
文面は感情を排し、契約の特定と期限と解除予告を明確にします。
| 必須要素 | 物件表示と契約日 |
|---|---|
| 必須要素 | 支払うべき金額 |
| 必須要素 | 支払期限の日付 |
| 必須要素 | 期限徒過時の解除予告 |
| 添付候補 | 振込先と口座名義 |
内容証明は型が大事なので、弁護士に作成を依頼すると安全性が上がります。
再販へ切り替える判断基準
支払いが遅れるほど、売主の機会損失は増えるため、解除して再販する決断が必要になります。
再販へ切り替えるかは、買主が本当に払えるのかを客観基準で見ます。
- 資金の裏付け資料が出るか
- 期限を守る姿勢があるか
- 仲介会社が買主の状況を把握しているか
- 市況が下がる前に再販したいか
再販を選ぶなら、写真や内覧準備などを早めに再起動できる体制を作ります。
手付金の精算で揉めないための整理
買主が払わない場合でも、手付金が自動で没収できるとは限らず、解除の種類と契約条項で扱いが変わります。
特に手付解除と債務不履行解除はルールが違うため、期限や履行の着手の有無を整理します。
| 論点 | 見るべきもの |
|---|---|
| 手付解除 | 手付解除期限と履行の着手 |
| 債務不履行解除 | 催告の要否と解除条項 |
| 違約金 | 予定額と上限の有無 |
| 参考 | 買主が売買代金を支払ってくれない |
手付解除の仕組みは、履行の着手で行使できなくなる点が実務上の落とし穴です。
トラブルを防ぐ契約条項と事前準備
買主が払ってくれないリスクはゼロにできませんが、契約設計と当日の段取りで被害を小さくできます。
売買契約書で見直すべき条項
契約書のどこに未払い時のルールが書かれているかを把握しておくと、いざというとき迷いません。
条項は難しく見えても、論点は支払期限と解除と違約金の三点に集約されがちです。
| 条項 | 見るポイント |
|---|---|
| 決済条項 | 支払方法と支払時刻 |
| 解除条項 | 催告の要否と通知方法 |
| 違約金条項 | 金額と損害賠償との関係 |
| ローン特約 | 期限と必要書類 |
不安なら契約前に弁護士へスポット相談し、条項の穴を塞ぎます。
手付解除期限と履行の着手を誤解しない
手付解除はいつでも使えるわけではなく、期限や履行の着手のタイミングで使えなくなります。
「履行の着手」は解釈が絡むため、現場では引渡し準備や測量着手などが争点になり得ます。
- 手付解除期限を契約書で確認する
- 売主側の履行着手に当たる行為を把握する
- 延期や条件変更は書面で合意する
- 条文の考え方は一次情報も確認する
参考リンク:手付解除と履行の着手の解説。
中間金や手付金の保全の注意点
買主が分割で支払う契約では、中間金の未払いが先に露見するため、保全と解除のルールを明確にします。
宅建業法上の書面交付や保全措置の話は取引形態で異なるため、仲介会社に確認しておくと安心です。
| 確認項目 | 手付金等の支払時期 |
|---|---|
| 確認項目 | 中間金の支払条件 |
| 確認項目 | 保全措置の説明有無 |
| 参考 | 手付金等の保全措置の整理 |
条文の原文に当たりたい場合は、e-Gov法令検索(宅地建物取引業法)も参照できます。
引渡し前にやってはいけない実務行為
未払い事故は、引渡し前に売主が先回りしすぎることで発生しやすくなります。
相手の都合で進めた行為ほど、後で撤回が難しくなるため、支払い確認を基準に動きます。
- 鍵の事前引渡しをしない
- 残置物撤去を買主都合で急がない
- 公共料金の名義変更を先にしない
- リフォーム着手を許可しない
現場判断に迷うときは、司法書士と仲介会社に「支払い前は動かない」を徹底してもらいます。
支払いトラブルに強い売却の進め方
買主がお金を払ってくれないときは、引渡しと登記を止めて証拠を固め、期限付きの請求を行うのが出発点です。
そのうえで、履行請求で回収を狙うのか、解除して再販に切り替えるのかを早めに決めるほど損失を抑えやすくなります。
決済日に未払いが起きたら、その場で書類と鍵を渡さず、延期合意や請求書面で手続きを前に進めます。
再発防止としては、契約条項の確認、手付解除期限の理解、同時履行の段取り、事前引渡しの禁止を徹底することが効果的です。
状況によって最適解は変わるため、引渡し後や登記後に未払いが判明した場合は、早期に弁護士へ相談して被害拡大を止めます。

