根抵当権が付いたままの不動産でも、売却そのものは可能です。
ただし「売買代金で完済して根抵当権を抹消してから引き渡す」のが原則で、段取りを誤ると決済当日に止まります。
根抵当権は、元本が確定するまでは担保する債権が増減し得るため、買主側のローン審査や金融機関の手続きで通常の抵当権よりも確認項目が増えます。
本記事では、根抵当権の仕組みから、元本確定と抹消の進め方、売買契約での注意点、費用の目安までを、実務の流れに沿って整理します。
根抵当権付き不動産を売却する結論
根抵当権付き不動産の売却は可能ですが、買主に引き渡す時点で根抵当権を「消す」か「残す」かを先に決め、金融機関を巻き込んだ段取りを組むのが最短ルートです。
売却は可能だが抹消が前提になる場面が多い
根抵当権が残ったままだと、買主は購入後も金融機関の担保が付いた物件を取得することになります。
多くの買主は住宅ローンを利用するため、買主側の金融機関は先順位の担保が残る取引を原則として認めません。
そのため実務では、売買決済日に売主の借入を精算し、同日に根抵当権抹消登記まで行って引き渡す形が基本になります。
決済日に抹消して引き渡すのが基本線
一般的な流れは、売買代金の着金と同時に売主の借入を完済し、金融機関から抹消書類を受け取り、司法書士が法務局へ抹消登記を申請します。
この「同日同時進行」が崩れると、買主は担保が残った状態で代金を支払うことになり、契約上も心理的にもハードルが上がります。
決済日の段取りは売主・買主・双方の金融機関・司法書士の4者調整になるため、早い段階で日程と必要書類を固める必要があります。
抹消の前提は残債の確定と手続きの可否確認
根抵当権は「一定の範囲に属する不特定の債権」を極度額の範囲で担保する仕組みで、元本が確定するまでは担保対象が増え得ます。
そのため抹消に向けては、現在いくら担保されているのかを確定させ、精算できる状態にする作業が重要です。
実務上は、金融機関と「解約」「解除」「元本確定」のどの手続きが必要かを確認し、書面の発行可否と発行にかかる日数まで押さえます。
金融機関の同意と書類発行がボトルネックになりやすい
根抵当権者である金融機関が抹消に必要な書類を出さない限り、売主だけでは抹消登記を進められません。
また、売却代金で完済する場合でも、当日の返済額計算、返済口座の指定、抹消書類の受け渡し方法など、金融機関側の運用ルールがあります。
担当部署が融資部門と担保部門で分かれることもあるため、窓口一本化の可否も含めて早めに調整すると詰まりにくくなります。
買主ローンでは根抵当権の扱いが審査・契約の焦点になる
買主が住宅ローンを利用する場合、買主側金融機関は担保順位と抹消の確実性を強く重視します。
売買契約書にも、決済日までに根抵当権を抹消できない場合の解除条件や、違約金の扱いなどが盛り込まれるのが通常です。
売主側としては、抹消手続きが予定通り進む根拠を示せるように、金融機関の回答内容や必要書類の目途を言語化しておくと交渉がスムーズです。
根抵当権を残したまま売る例外はあるが難易度が高い
買主が現金購入であり、根抵当権を引き受ける合理性がある場合は、根抵当権を残す取引も理論上はあります。
ただし、買主が引き受けるリスクが大きく、将来の借入や売却の制約にも直結するため、価格面で大きな調整が必要になりがちです。
現実的には、抹消前提で進める方が取引成立の確率が高いと考えておくのが安全です。
早期に専門家へつなぐべきサイン
登記簿に複数の根抵当権がある場合や、債務者・設定者が異なる場合は、手続きの組み方が一気に複雑になります。
また、事業融資が絡む根抵当権は、他の担保や保証、当座貸越なども連動するため、単純な完済だけで終わらないことがあります。
このようなケースでは、司法書士と不動産会社だけでなく、必要に応じて弁護士や税理士の関与も検討するとリスクを抑えられます。
根抵当権の仕組みを最短で理解する
根抵当権は通常の抵当権と同じく担保権ですが、元本確定まで担保範囲が変動する点が売却実務に直撃します。
根抵当権は不特定の債権を極度額まで担保する
民法は、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保するためにも抵当権を設定できると定めています。
この規定が根抵当権の基本で、条文としては民法の根抵当権に関する部分に整理されています。
条文の確認は、電子政府の法令検索で民法の根抵当権規定を参照すると確実です。
抵当権との違いは売却時の手間に表れる
抵当権は通常、特定の住宅ローンなど特定債権を担保し、完済すれば抹消へ進みます。
根抵当権は継続的取引を念頭に、借入が増減する可能性を残したまま担保を固定する発想です。
| 観点 | 抵当権 | 根抵当権 |
|---|---|---|
| 担保する債権 | 原則として特定 | 一定範囲の不特定 |
| 売却時の焦点 | 残債完済と抹消 | 元本確定と抹消の段取り |
| 買主ローンの扱い | 抹消前提が一般的 | 抹消確実性の説明がより重要 |
売却では、この違いが「決済日までに本当に消せるのか」という信用に直結します。
元本確定は担保対象を固定するスイッチになる
元本確定とは、根抵当権が担保する元本が確定し、以後は新たな債権が担保に組み込まれなくなる状態を指します。
売却においては、精算すべき金額と抹消に必要な条件を明確にするための重要なプロセスです。
- 担保される元本が固定される
- 以後の新規借入が担保に入りにくくなる
- 抹消・移転など次の手続きが組みやすくなる
元本確定は「売却の準備が整ったか」を判断する目安にもなります。
極度額が大きいほどリスク説明が必要になる
根抵当権には極度額が登記されており、登記簿上はその金額まで担保が及ぶ可能性が示されます。
実際の借入が極度額より小さくても、買主から見ると数字のインパクトが大きく、心理的な不安になりやすい点に注意が必要です。
買主へは「実残高」「元本確定の方針」「決済で抹消する段取り」をセットで説明し、誤解を減らすのが現実的です。
根抵当権付き不動産を売却する手順
売却は通常の不動産売買に金融機関手続きが追加されるため、先に手順を固定するとトラブルが減ります。
最初に登記簿で根抵当権の内容を読み取る
売却活動を始める前に、登記事項証明書で根抵当権の極度額、根抵当権者、債務者、設定者、順位番号を確認します。
この情報が分からないまま進めると、途中で「そもそも誰が手続きできるのか」が不明になりやすいです。
- 根抵当権者の名称と支店
- 極度額と順位番号
- 債務者と根抵当権設定者の一致不一致
- 共同担保の有無
共同担保があると、対象不動産だけを単独で抹消できない可能性があるため、特に注意します。
金融機関へ売却予定を伝え手続きルートを確定する
根抵当権者である金融機関に、売却予定と決済希望時期を伝え、必要な手続きを確認します。
実務では「解約」「解除」「元本確定」「残債精算」の順序が金融機関によって異なるため、言葉を合わせることが重要です。
| 確認項目 | 質問の例 | 決めること |
|---|---|---|
| 抹消の前提 | 完済だけで抹消書類は出ますか | 必要条件 |
| 書類の種類 | 解除証書や委任状はいつ出ますか | 受領方法 |
| 返済計算 | 決済日の返済額はいつ確定しますか | 当日の段取り |
| 担当窓口 | 融資と担保は同じ担当ですか | 連絡ルート |
この段階で「できること」と「できないこと」を言語化できると、売買契約の条件設定が安定します。
売買契約では抹消を条件にした特約を組む
売買契約では、引渡しまでに根抵当権を抹消できることを前提条件にするのが一般的です。
もし抹消できない場合の解除条件、違約金の扱い、手付金の返還条件などを明確にしておくと、決済当日の不測の事態に備えられます。
買主ローンを使う場合は、買主側金融機関が求める書式や文言もあるため、不動産会社と司法書士を交えて整えます。
決済当日は司法書士の指示で同時履行にする
決済日にやるべきことは、代金支払い、残債返済、抹消書類受領、所有権移転登記、根抵当権抹消登記の同時実行です。
司法書士が全体を交通整理し、書類の真正、本人確認、資金着金の確認を行いながら登記申請へ進めます。
売主側は、本人確認書類や印鑑、金融機関からの必要書類の受領方法を事前に確認し、当日不足が出ないようにします。
元本確定と解除をどう進めるか
根抵当権の売却準備では、元本確定をいつどの方法で行うかが手続きの中核になります。
元本確定請求のルールを押さえる
民法には、根抵当権設定者が一定条件で元本確定を請求できることが定められています。
確定期日の定めがない場合、設定から3年経過後に請求でき、請求から2週間経過で確定する仕組みがあります。
条文の確認は、民法の根抵当権の元本確定請求に関する規定で行えます。
確定事由が起きると自動的に確定する場合がある
元本確定は、請求や合意だけでなく、競売手続の開始や破産手続開始決定などの確定事由によっても生じ得ます。
売却局面では、差押えや手続きの進行状況が絡むと想定外に確定していることもあるため、状況確認が欠かせません。
| 確定のきっかけ | 起こり得る場面 | 売却への影響 |
|---|---|---|
| 元本確定請求 | 売却準備で確定させたい | 精算金額が固定しやすい |
| 競売等の開始 | 債権回収が進んだ | 売却より先に手続きが進む |
| 破産手続開始決定 | 債務者の破産 | 買主探索が困難化しやすい |
確定事由の条文確認は民法の根抵当権の元本確定事由の規定が参考になります。
合意で確定させるのが実務では速いことが多い
実務では、金融機関が協力的であれば、売却予定に合わせて元本確定期日を定めたり、合意で確定させたりすることがあります。
請求による確定は時間要件が絡むことがあるため、決済日が近い場合は合意ルートの方が現実的なこともあります。
どの方法が使えるかは金融機関と取引内容次第なので、書面の種類と発行スケジュールをセットで確認します。
元本確定前にやってはいけない行動がある
元本確定前に当座貸越などの枠が残っている場合、意図せず借入が動くと精算金額がぶれます。
また、関係者間の認識が揃わないまま売買契約を急ぐと、契約条件と金融機関の運用が噛み合わないことがあります。
- 決済直前の追加借入や口座引落しの増額
- 根抵当権の共同担保を無視した単独売却
- 金融機関の書類発行日数を見込まない日程設定
売却活動の開始前に「資金の動きを止める」「根抵当の枠を閉じる」方針を固めると安全です。
抹消登記の実務と必要書類
根抵当権を抹消するには、登記申請そのものだけでなく、金融機関から受け取る書類が揃うことが前提です。
法務局の様式と案内で必要書類の全体像を掴む
抹消登記は法務局が様式や案内資料を公開しており、必要書類や記載例を確認できます。
根抵当権の抹消も、同様に申請書様式や記載例が用意されているため、全体像の確認に役立ちます。
情報の入口としては、法務局の申請書様式のページを参照すると整理しやすいです。
金融機関から受け取る書類が最重要になる
抹消登記で現場が止まる原因は、申請書の書き方よりも、金融機関書類が不足しているケースが大半です。
書類名は金融機関によって表現が異なりますが、解除や弁済を証する書面、委任状、登記識別情報に相当するものなどが必要になります。
| 書類区分 | 例 | 入手先 |
|---|---|---|
| 原因を示す書面 | 解除証書・弁済証書等 | 金融機関 |
| 登記申請の権限 | 委任状 | 金融機関 |
| 申請書 | 根抵当権抹消登記申請書 | 申請者・司法書士 |
必要書類の考え方は、法務局が公開する「抹消登記に必要な書類」資料も参考になります。
自分で申請するか司法書士に任せるかを決める
登記申請自体は本人申請も可能ですが、決済同日に所有権移転と抹消を同時に行う場面では、司法書士が関与するのが一般的です。
司法書士が入ると、本人確認、書類の適法性確認、当日段取りが一体運用できるため、買主側金融機関の要請にも対応しやすくなります。
- 売却と同日に抹消するなら司法書士が安全
- 抹消だけ後日なら本人申請の検討余地がある
- 書類紛失リスクがあるなら早めに専門家へ
特に根抵当権は金融機関書類の受領と確認が多いため、実務負担も踏まえて判断します。
抹消関連の公式資料を事前に見て不足を潰す
法務局は抵当権抹消に関する案内資料を公開しており、準備する書類や留意点の把握に役立ちます。
根抵当権の抹消でも、同じ発想で「集める書類」を先にチェックすると、決済直前の手戻りが減ります。
費用の目安とスケジュール管理
根抵当権付き不動産の売却では、売却諸費用に加えて抹消・金融機関手続きのコストと時間が発生します。
抹消登記には税金と専門家費用がかかる
抹消登記には登録免許税が発生し、さらに司法書士へ依頼する場合は報酬も必要です。
報酬は物件数や権利関係の複雑さ、当日決済の拘束時間などで変動します。
| 費用項目 | 発生タイミング | 目安の考え方 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 抹消登記申請時 | 不動産の個数等で計算 |
| 司法書士報酬 | 依頼契約時 | 手続き難易度で変動 |
| 金融機関手数料 | 完済・解約時 | 契約内容により有無がある |
費用は売却代金から控除される項目が多いため、手取り見込みを計算する際に早めに織り込みます。
売却活動の前に逆算して日程を作る
根抵当権の案件は、買付が入ってから動くと間に合わないことがあるため、売り出し前に逆算表を作るのが有効です。
特に金融機関書類の発行日数と、決済当日の担当者手配の要否は先に確認します。
- 売り出し前に金融機関へ相談し必要手続きを確定する
- 買付後すぐに決済希望日を提示し調整を開始する
- 決済1週間前までに必要書類が揃う状態を目標にする
時間を味方にすると、買主への説明も「確実に抹消できる」内容に変わります。
売買契約で起こりやすいトラブルを先回りする
典型的なトラブルは、決済日に抹消書類が間に合わない、返済額が確定しない、共同担保の解除条件が想定と違う、の3つです。
これらは契約後に発覚すると、買主の不信感に直結し、最悪は解除にもつながります。
売主は不動産会社と司法書士に「根抵当権の論点」を共有し、契約条項と実務運用を一致させておくことが重要です。
相続や法人取引が絡む場合は追加確認が必要になる
相続不動産に根抵当権が残っている場合、債務者と相続人の関係、金融機関との取引状況、相続登記の進捗が絡みます。
法人の根抵当権では、代表者変更や本店移転、商号変更など登記事項の変更が未処理だと、委任状や証明書が通らないことがあります。
このタイプは売却より先に登記や社内手続きを整える必要があるため、着手を前倒しします。
売却の前に確認しておきたい要点
根抵当権付き不動産の売却は可能ですが、基本は決済日に根抵当権を抹消して引き渡す設計にします。
登記簿で根抵当権の内容を確認し、金融機関に必要手続きと書類発行日数を早期に確認すると、売買契約と決済が安定します。
元本確定は担保範囲を固定する重要手続きで、請求・合意・確定事由のどれが使えるかを整理して進めます。
売買契約では抹消できない場合の条件を明確化し、買主ローンの要請と噛み合わせることでトラブルを避けやすくなります。
費用と日程は逆算で管理し、複数担保や相続・法人が絡む場合は早めに専門家へつないで手戻りを減らします。

