不動産を売ったあとに「税金が思ったより高い」と感じる原因の一つが、譲渡費用の入れ漏れです。
譲渡費用は、正しく集めて計上できれば譲渡所得を圧縮し、結果として税負担を下げられます。
一方で「何でも入れられる経費」ではなく、国税庁が示す線引きに沿って判断しないと否認リスクもあります。
この記事では、不動産売却での譲渡費用の意味、代表例、ならない支出、書類整理、計算の流れまで一気通貫で整理します。
不動産売却の譲渡費用とは
譲渡費用とは、不動産を売るために直接かかった費用のことです。
譲渡所得は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算し、譲渡費用はこの控除要素になります。
譲渡所得の計算で差し引ける費用
土地や建物を売ったときの利益は、売却代金そのものではなく「譲渡所得」として計算します。
国税庁は、譲渡所得を「譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引く」形で計算すると示しています。
譲渡費用を漏らすと、利益が実態より大きく見えて税金が増えやすくなります。
計算の全体像は、国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた」で確認できます。
国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかたを一度読んでから費用整理を始めると迷いが減ります。
「直接かかった費用」が線引きの核心
譲渡費用の定義はシンプルで、「売るために直接かかった費用」です。
たとえば仲介手数料、測量費、契約書の印紙代、立退料、取壊し費用などが例示されています。
この「直接」という言葉が重要で、維持管理のための支出や、売却代金の取立てに関する費用は含まれないとされています。
迷ったら「その支出がなければ今回の売買が成立しなかったか」を起点に考えると整理しやすいです。
代表例と注意点は、国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」が最も実務的です。
国税庁 No.3255 譲渡費用となるものを根拠として、領収書や精算書を紐づけておきます。
取得費との違いを押さえる
取得費は「買ったとき・取得したとき」に要した費用の集まりで、譲渡費用は「売るとき」に直接要した費用です。
たとえば購入時の仲介手数料は取得費側に入る考え方になり、売却時の仲介手数料は譲渡費用側に入ります。
同じ名称の費用でも、支払ったタイミングと目的で区分が変わる点が落とし穴です。
取得費の考え方は国税庁「No.3202」にも定義があり、建物は減価償却費相当額を控除する点も示されています。
国税庁 No.3202(取得費の説明)に沿って、取得費と譲渡費用を二つの箱に分けて集計します。
「売却諸費用」と「譲渡費用」は同じではない
不動産会社のサイト等で「売却費用」と呼ばれるものには、税金や清算金など幅広い支出が混ざります。
一方で譲渡費用は、譲渡所得の計算上で控除できる範囲に限られます。
たとえば譲渡所得税そのものは、譲渡所得から計算して後で払う税金であり、譲渡費用として控除する性質ではありません。
また、固定資産税の清算金のように「支出っぽく見えるが税務上は扱いが別」の項目も出てきます。
まずは「税務上の譲渡費用」と「手元から出るお金(キャッシュアウト)」を分けて把握することが大切です。
譲渡費用を入れるメリットは税負担の圧縮
譲渡費用は、譲渡価額から差し引けるため、譲渡所得を直接小さくします。
譲渡所得が小さくなれば、税率を掛ける土台が下がるので、納税額が下がります。
譲渡所得の税額は分離課税で計算され、所有期間によって長期・短期に分かれます。
税率の基本は国税庁「No.1440 譲渡所得」で整理されているため、費用の漏れが税額に直結する感覚をつかみやすいです。
国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)を見ながら、概算の税額も一度試算しておきます。
誤解しやすいポイントは「維持費は入らない」
国税庁は、修繕費や固定資産税など「維持や管理」のための費用は譲渡費用にならないと明記しています。
売却の準備として支払ったつもりでも、実態が維持管理なら対象外になり得ます。
また「売った代金の取立てのための費用」も譲渡費用にならないとされており、手数料の性質確認が必要です。
ここを曖昧にすると、申告後の問い合わせで説明が難しくなります。
判断に迷う支出は、支払先・名目・目的が分かる明細を残し、税理士等への相談材料にします。
最初にやるべきことは書類の棚卸し
譲渡費用を集める作業は、領収書集めより先に「どの書類に何が載っているか」を把握することが重要です。
売買契約書、重要事項説明書、媒介契約書、決済時の精算書、司法書士や測量士の請求書などを一か所に集めます。
そのうえで「売るために直接かかった支出」と言えるものを抽出し、証憑と紐づけます。
不足があれば、仲介会社や専門家に再発行を依頼できる場合もあります。
売却が終わって時間が経つほど書類が散逸するため、引渡し直後に整理を始めるのが安全です。
譲渡費用にできる代表例
譲渡費用の代表例は、国税庁が具体的に列挙しています。
どれも「売却のために直接要した」と説明できる形で、契約書や領収書とセットで保管するのが基本です。
仲介手数料と売却のための支払い
不動産会社に支払う仲介手数料は、譲渡費用の代表格です。
売却活動の対価として発生し、売買が成立して初めて確定する性質があるため「直接費用」と説明しやすいです。
媒介契約書、請求書、領収書、振込控えを一式で残します。
金額が大きくなりやすいので、計上漏れが税額に与える影響も大きくなります。
| 該当する費用 | 仲介手数料 |
|---|---|
| 根拠の考え方 | 売るために直接要した費用 |
| 主な証拠書類 | 媒介契約書、請求書、領収書 |
| 注意点 | 取得時の手数料と混同しない |
印紙税と契約解除の違約金
売買契約書に貼付する印紙税のうち、売主が負担した分は譲渡費用の例示に入っています。
また、より有利な条件で売るために既契約を解除し、そのために支払った違約金も譲渡費用の例示があります。
印紙税は契約書原本の管理とセットで、違約金は解除合意書や支払記録を残します。
どちらも「今回の譲渡の成立に直接関係した」と説明できる形にしておくことがポイントです。
- 売主負担の印紙税
- 契約解除に伴う違約金(条件改善のため)
- 解除合意書・領収書・振込控えの保管
測量費と境界確定に関する費用
測量費も、国税庁が譲渡費用の例として挙げる代表項目です。
境界確認や分筆など、取引条件として必要だった場合は「売るために直接要した」と説明しやすくなります。
測量士・土地家屋調査士の請求書と、作業内容が分かる報告書をセットで残します。
売却に直結しない任意の測量か、今回の取引要件かで意味合いが変わるため、契約条件も併せて整理します。
| 該当する費用 | 測量費 |
|---|---|
| 典型シーン | 境界確定が取引条件 |
| 主な証拠書類 | 請求書、領収書、報告書 |
| 注意点 | 売却と無関係な測量は要検討 |
立退料と取壊し費用
賃貸中の不動産を売るために借家人に退去してもらう立退料は、譲渡費用の例示があります。
また、建物を取り壊して土地として売る場合の取壊し費用も譲渡費用の例示に含まれます。
立退料は合意書や振込記録、取壊し費用は工事契約書や領収書を必ず残します。
これらは金額が大きくなりやすい反面、目的が明確なので書類整備で説得力が出ます。
- 借家人に支払う立退料
- 土地売却のための建物取壊し費用
- 合意書・工事契約書・支払記録の保管
国税庁 No.3255 譲渡費用となるものに、これらの例示がまとまっています。
譲渡費用にできない支出を見分ける
譲渡費用は範囲が広そうに見えますが、実務では「入らないもの」を先に知るほうが安全です。
国税庁は、維持管理費や取立て費用などは譲渡費用にならないと明示しているため、ここを基準に仕分けします。
固定資産税や管理費などの清算項目
固定資産税は、資産の維持・保有に伴う税であり、譲渡費用に含めない考え方が基本です。
マンションの管理費や修繕積立金も、保有中の維持管理の性質が強く、譲渡費用とはズレやすい項目です。
決済時に日割り清算があっても、税務上の「譲渡費用」ではなく清算関係として整理するほうが安全です。
ここを無理に譲渡費用として入れると、国税庁が示す「維持や管理のための費用は譲渡費用にならない」という説明と衝突します。
- 固定資産税(保有に伴う税)
- 管理費・修繕積立金(維持管理)
- 水道光熱費などの生活費・運用費
修繕費やリフォーム費は「目的」で扱いが変わる
リフォーム費を支払ってから売るケースは多いですが、すべてが譲渡費用になるわけではありません。
支出の性質が「資産価値を高める改良」なのか「維持管理」なのかで、取得費に含める余地が出たり、そもそも対象外になったりします。
譲渡費用の定義は「売るために直接かかった費用」であり、改良のような支出は距離がある場合もあります。
売却のための直接費用として説明しづらいと感じたら、安易に譲渡費用へ入れず、取得費・必要経費・対象外の可能性を含めて整理します。
| 支出の例 | 考え方 |
|---|---|
| 修繕・補修 | 維持管理寄りで要注意 |
| 大規模改良 | 取得費の検討余地 |
| 売却の直接条件 | 譲渡費用の可能性 |
| 判断材料 | 契約条件、見積書の目的記載 |
判断が割れやすい費用は「必要性」で説明する
売買の成立に必要だった支出かどうかで評価が変わりやすい費用があります。
国税庁の例示に明記がない費用は、個別事情で「譲渡のために直接要した」と言えるかが鍵になります。
そのため、費用名だけで断定せず、契約条項や精算書の内訳で必要性を示せるかを確認します。
不安がある場合は、国税庁の基本説明に立ち返り、無理な計上を避けたうえで専門家に相談します。
- 例示にない費用は個別判断になりやすい
- 「取引の条件として必要だったか」を確認する
- 契約条項や明細で必要性を示す
引っ越し費用や残置物処分などの生活コスト
引っ越し費用、仮住まい費用、家財処分などは、売却に伴って発生しやすい支出です。
しかし「売るために直接かかった費用」という譲渡費用の定義からは外れやすく、生活上の支出として整理されがちです。
また、売却代金の取立て費用は譲渡費用にならないとされており、手数料の性質確認も必要です。
売却関連で出費が多いときほど、税務上の控除対象と家計の支出を切り分けておくと混乱しません。
| 支出 | 扱いの目安 |
|---|---|
| 引っ越し費用 | 生活費寄りで対象外になりやすい |
| 仮住まい費用 | 生活費寄りで対象外になりやすい |
| 残置物処分 | 内容次第で要検討 |
| 取立て費用 | 譲渡費用にならない |
国税庁 No.3255(譲渡費用に当たらない例)の説明を基準にします。
譲渡費用を漏らさない整理術
譲渡費用は「思い出せるものを足す」より、「書類から拾う」ほうが漏れが減ります。
決済関連書類を起点にチェックリスト化し、証憑と金額を一対一で紐づける運用が強いです。
領収書がないときに準備する代替資料
領収書がないときでも、銀行振込の控えやクレジット明細、請求書、契約書が揃えば説明できる場合があります。
特に仲介手数料や測量費などは、請求書と振込記録がセットで残っていることが多いです。
現金払いで証憑が薄い場合は、支払先に再発行を依頼できるかを早めに確認します。
「いつ、誰に、何の目的で」を示せる書類が複数あるほど、計上の説得力が上がります。
- 振込控え・通帳明細
- 請求書・見積書
- 媒介契約書・工事契約書
- メールや発注書などの補助資料
決済書類で必ず確認したい項目
不動産の決済時には、費用と清算金が一枚の精算書にまとまることがあります。
ここから「譲渡費用になり得るもの」と「清算項目」を分けて拾うと効率的です。
仲介会社から交付される明細は、費用の漏れ防止に非常に有効です。
一方で清算項目まで譲渡費用に混ぜないように、分類欄を作って管理します。
| チェック項目 | ポイント |
|---|---|
| 仲介手数料 | 請求書・領収書と照合 |
| 印紙税 | 契約書の原本で確認 |
| 測量・解体 | 契約条件との関係を整理 |
| 清算項目 | 譲渡費用に混ぜない |
共有名義や相続が絡むときの整理
共有名義の場合、譲渡所得の計算は持分に応じて按分するのが基本です。
譲渡費用も、誰が負担したか、契約上どちらが負担するかで整理し、最終的に持分と整合する形でまとめます。
相続で取得した不動産では、取得費の把握が難しく、譲渡費用だけでも確実に集める価値が高まります。
後から揉めないように、共同負担の費用は明細を共有し、支払い実態を残しておきます。
- 持分割合を先に確定する
- 費用の負担者と契約上の負担者を整理する
- 按分根拠をメモとして残す
支出の時期がズレるときの扱い
測量や解体のように、売買契約より前に支出が発生するケースがあります。
重要なのは支払時期よりも「今回の譲渡のために直接要した」と説明できる関係性です。
売却のために必要な準備として支出したことが分かるように、契約条件や依頼書を揃えます。
複数年にまたがる場合でも、売却の一連の流れの中で合理的に説明できる形にしておくと安心です。
| ケース | 整理のコツ |
|---|---|
| 売却前の測量 | 取引条件との関係を残す |
| 売却前の解体 | 土地売却の前提であることを示す |
| 契約後の費用 | 決済精算書で拾う |
| 複数年 | 時系列メモを残す |
税額まで見通す計算の流れ
譲渡費用の整理は、最終的に税額を見通すところまで行うと判断がブレにくくなります。
ここでは計算式、税率区分、特例の代表例を押さえ、費用の効果を数字で把握します。
計算式は「売値-(取得費+譲渡費用)」
不動産売却の譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引く形で計算します。
国税庁はこの算式を繰り返し示しており、確定申告特集ページにも同様の説明があります。
まずは取得費と譲渡費用を分けて集計し、粗い試算でもよいので譲渡所得の規模を把握します。
試算ができると、どの費用が重要か、どの書類が不足しているかが見えます。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 譲渡価額 | 売った金額 |
| 取得費 | 買ったとき等の費用 |
| 譲渡費用 | 売るために直接かかった費用 |
| 譲渡所得 | 譲渡価額-(取得費+譲渡費用) |
国税庁 No.3202と、国税庁 不動産等を売却した方へ(確定申告特集)を参照して整合を取ります。
長期と短期で税率が変わる
土地や建物の譲渡所得は分離課税で、所有期間により長期と短期に区分されます。
国税庁によれば、長期譲渡所得は課税長期譲渡所得金額に15%、短期譲渡所得は課税短期譲渡所得金額に30%を掛けるのが基本です。
さらに復興特別所得税が上乗せされる期間も示されているため、概算でも把握しておくと安心です。
譲渡費用を入れることで、税率を掛ける前の課税所得が下がる点がここでも効きます。
- 長期譲渡所得:所有期間5年超が目安
- 短期譲渡所得:所有期間5年以下が目安
- 税率の基本は国税庁に記載
国税庁 No.1440と、国税庁 No.3211(短期の税額計算)を確認します。
3,000万円特別控除が使えると税額が大きく変わる
マイホーム(居住用財産)を売った場合、一定要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。
この特例は所有期間の長短に関係なく適用できるとされており、譲渡費用と同様に課税対象を下げます。
控除の可否は要件で決まるため、譲渡費用の整理と並行して早めにチェックしておくと手戻りが減ります。
過去に居住していた家を売るケースでも適用の余地があるため、該当しそうなら条件確認を優先します。
| 特例 | 概要 |
|---|---|
| 3,000万円特別控除 | 譲渡所得から最高3,000万円控除 |
| 対象の例 | 居住用財産(マイホーム) |
| 確認先 | 国税庁タックスアンサー |
| 注意点 | 要件・併用可否の確認が必要 |
国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例と、国税庁 No.3314 過去に居住していたマイホームを売ったときで要件を確認します。
申告が必要になる代表パターン
不動産を売却し、算式で計算して利益(譲渡所得)が出る場合は原則として確定申告が必要です。
国税庁の確定申告特集でも、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて譲渡所得金額を計算すると示されています。
譲渡所得が出ないと思っていても、取得費が不明で概算取得費になると利益が出ることがあり、譲渡費用の整理が重要になります。
申告に必要な書類の準備も含め、売却後は早めに全体像を確認するのが安全です。
- 譲渡所得(利益)が出ると原則申告が必要
- 取得費が不明だと利益が大きく見えやすい
- 譲渡費用の漏れが税額差につながる
国税庁 不動産等を売却した方へ(確定申告特集)で申告の入口を確認します。
手元に残る金額を増やすための着地点
不動産売却の譲渡費用とは、売るために直接かかった費用であり、譲渡所得の計算で控除できる重要項目です。
仲介手数料や測量費、印紙税などは代表例として整理しやすい一方、維持管理費や生活費は対象外になりやすい点を押さえます。
漏れ防止の近道は、決済精算書と契約書類を起点にチェックリスト化し、証憑と金額を一対一で紐づけることです。
税率区分や3,000万円特別控除などの特例も絡むため、譲渡費用の整理と同時に計算の全体像を見通します。
迷う支出は「売却のために直接必要だったか」を軸に、根拠書類を残したうえで慎重に判断することが、結果的に手残りを最大化します。

